日本の物流は、優秀すぎた。韓国のWillogが“荷物と旅するセンサー”で狙う、海の向こうの見えない区間
工場を出た荷物は、トラック、倉庫、港、船と、いくつもの会社の手を渡って海外に届きます。届いた先で壊れていても、どこで壊れたのかは分かりません。韓国のWillog(ウィルログ)は、温度や衝撃を測るセンサーを荷物と一緒に旅させ、電波の届かない海の上でも記録を途切れさせません。日本法人の代表、成 治国さんに、日本の国内輸送では出番が少ない理由、通信が切れる前提の設計、韓国でワクチンの温度記録がルールになった背景、そしてデータを保険につなぐ構想を伺いました。

海外に送った精密機器が、届いた先で壊れていた。そのとき、どこで壊れたのかを言い当てられる人は、ほとんどいません。
工場を出た荷物は、トラックで港へ運ばれ、倉庫で待ち、コンテナに積まれて船に乗り、着いた国でまたトラックに載せ替えられます。区間ごとに運ぶ会社が違い、記録もそこで途切れます。だから箱を開けて破損が見つかっても、港で落とされたのか、船の揺れなのか、最後のトラックなのかが分からないんです。
この"途切れ"は、日本の荷主にとって他人事ではなくなってきました。2026年4月から、年間の取扱貨物が9万トン以上の大きな荷主には、物流を統括する責任者(CLO)の選任などが義務になっています。物流を運送会社に任せきりにせず、荷主自身が管理する時代です。
しかも日本と韓国の間では、高価で壊れやすい荷物が大量に行き来しています。
荷物の温度や衝撃を記録するセンサーそのものは、以前からあります。AIとデータを仕事にしている私たちが気になったのは、その記録が海の上でも途切れないのか、という点でした。船の上では、携帯電話の電波が届かない海域もあるからです。
その"海の上の空白"を埋めようとしている会社が、韓国にあります。Willog(ウィルログ)です。
そして今回、Willogの日本法人の代表、成 治国(スン・チグ)さんに、直接お話を伺えることになりました!
先に、取材で分かったことを3つだけ置いておきます。
- 日本の国内輸送では、出番が少ない
日本の国内配送は品質が高く安定している。Willogの価値がいちばん出るのは、何社もの運送会社と輸送手段をまたぐ輸出入の荷物。 - 電波が切れても、記録は途切れない
センサーは荷物と一緒に移動し、通信できない間もデータを本体にためて、つながった時点でまとめて送る。 - データは、事故の"証拠"になる
どの区間で何が起きたかが分かれば、原因の分析に加えて、責任の確認や保険の手続きにも使える。

成 治国Chiguk Sung
株式会社Willog Corporation(Willog日本法人)代表取締役
「日本国内の配送は品質が高い。だから私たちの価値がいちばん出るのは、国境を越える輸送です」── 成 治国(本記事の取材より)
- 〜2018大学から日本へ韓国で生まれ育ち、大学から日本で学ぶ。東北大学大学院経済学研究科で修士課程を修了
- 2018〜三井住友銀行約7年間、中小企業向けの法人営業、外資系グローバル企業の日本拠点の担当、海外ファンドへの投資業務を経験
- 2025.05Willogに入社日本での事業の立ち上げを担当
- NOWWillog日本法人 代表取締役2026年4月に設立した株式会社Willog Corporationの代表として、営業、事業開発、パートナーとの連携を担う
メガバンクから、荷物を追いかける会社へ
成さん、今日はよろしくお願いします! まずは成さんのこれまでのご経歴から伺ってもよろしいですか?
生まれも育ちも韓国で、家族もみんな韓国にいます。日本に来たのは大学からです。東北大学の大学院で経済学の修士課程を終えて、2018年に三井住友銀行に入りました。
銀行には約7年いました。最初は錦糸町の法人営業部で中小企業を担当して、2020年からは国際法人営業部で外資系のグローバル企業の日本拠点を、2024年からは投資営業部で海外のファンドへの投資を担当しました。
いちばんの転機は、国際法人営業部での経験です。グローバル企業と話すなかで、国や会社によって意思決定のスピードや進め方がまったく違うことを肌で感じました。
銀行の仕事には、大きなやりがいがありました。いろいろな会社の財務を支えて、プロジェクトの実現を後押しできる。ただ、金融の仕事は、どうしてもお客様の財務やプロジェクト単位での関わり方になります。一つの事業を、最初から最後まで自分で運営してみたいという気持ちも、ずっとありました。
一つの事業を、最初から最後まで。そこで出会ったのがWillogだったんですね。どんなきっかけだったんですか?
最初のつながりは、東北大学の韓国人の後輩です。その後輩の、韓国での高校の同級生が、いまのWillogの代表の一人なんです。その代表が日本に出張に来たときに、一度会ってみたら、と紹介されたのが始まりでした。
ちょうどWillogが日本への進出を本格的に準備していた時期でした。日本では、トラックの運転手の残業規制で輸送力が足りなくなる「2024年問題」や、物流の法律の改正があって、物流をデータで管理する必要が高まっていた。輸送中の"見えない区間"をデータでつなぐというWillogのテーマは、日本の物流にもそのまま当てはまると思いました。それで2025年5月に入社して、日本の事業を担当することになりました。
見えない区間をデータでつなぐ。そのテーマを持って、銀行の看板を離れて日本でゼロから営業を始めるのは、大変だったんじゃないですか?
国も業界も、会社の大きさも全部変わったので、何もかもが新しい関係でした。大きな不安はなかったんですが、実際に活動してみると、やっぱり大変な面はありました。大きな会社の看板を背負った営業とは違って、本当にゼロからの始まりなので、遠回りもかなりしました。
それでも、銀行での経験はすごく役に立っています。いろいろな業界の会社を担当してきたので、ビジネスマナーはもちろん、社内の稟議がどう進むのかも分かる。お客様の状況に合わせた提案ができるんです。
もう一つは信頼です。メガバンクでの経歴を評価してくださって、安定した職場を離れて挑戦していることを応援してくださる方も多いんです。おかげで、日本で活動を始めてまだ1年ほどですが、国内の主要な企業の皆さまとお会いする機会をいただき、PoC(実証実験)も進んでいます。今は、楽しくやっています。
壊れやすく、高い荷物ほど揉める
主要な企業と、もう実証実験まで進んでいるんですね。公開できる範囲で、どんなお客さんから声がかかっているんですか?
お客様は企業です。そのなかでも、温度や衝撃に敏感で、しかも一定の単価がある商品をつくるメーカー様と、そうした商品を運ぶ物流会社様が中心です。
韓国でいちばん多いのは製薬業界で、医薬品やワクチンです。そのほかには精密機器、半導体、化学品。実は自動車の車体も、衝撃に弱かったりします。
日本でも傾向は同じですが、特に海外との輸出入が多いグローバル企業様からのお問い合わせが多いですね。日本の国内は物流のインフラが整っていて、配送の事故が起きないように徹底して準備されています。でも日本を離れて海外に行くと、その細やかな気配りが届きにくくなる。そこに私たちの出番があります。
日本の中は安心、でも国境の外は分からない、と。実際に、どんな困りごとがあるんでしょう?
精密機器を例にお話しします。製品は工場を出てから海外のお客様に届くまでに、トラック、倉庫、港、船と、いくつもの事業者と輸送手段を経由します。
Willogを入れる前は、着いてから破損が見つかっても、どの区間で、いつ、どのくらいの衝撃が加わったのかが分かりませんでした。記録は区間ごとに分かれていて、担当する事業者もそれぞれ違う。だから原因も責任の所在も、あいまいになりがちです。その結果、原因が分からないまま梱包を必要以上に厚くしたり、同じ事故を繰り返したりすることも少なくありませんでした。
特に、単価の高い商品ほど、問題が起きたときに責任の所在で揉めやすいんです。作った側の問題なのか、運んだ側なのか、受け取ったあとなのか。データを取っていないと、言い合いに根拠がないので、訴訟までいくとかなり長引いてしまいます。
責任の所在で揉めると、裁判まで長引いてしまう…。Willogを使うと、荷物の旅はどう見えるようになるんですか?
引き続き、精密機器の輸出でご説明します。まず出荷の前に、リアルタイム型のセンサー「T1」を起動して、システム上で荷物とひも付けます。
置く場所や台数は、業界や、お客様がどこまで細かく管理したいかで変わります。医薬品なら、保冷剤を入れた箱にワクチンなどを詰めて運ぶので、箱ごとにセンサーを入れます。船で運ぶときは、パレットに積んだ製品をラップで巻くときに、センサーも一緒に固定します。コンテナに1台だけのこともありますが、コンテナの前と後ろで衝撃や温度が違うこともあるので、2〜3台以上置くこともあります。
T1が測るのは、位置、温度、湿度、衝撃、傾き、明るさです。標準の設定では10分ごとにデータを記録して、60分ごとに送ります。データは携帯電話の回線でクラウドの「Control Tower」に届き、担当者は地図や時間ごとのグラフで荷物の状態を確かめられます。決めた基準を超えたら知らせが届き、到着後にシステムで到着の処理をすると、その輸送の記録とレポートが自動でまとまります。
センサーは荷物と一緒に動くので、トラックから倉庫、船へと積み替えられても、同じセンサーが出発から到着まで記録を続けます。

海の上で電波が切れても、記録は消えない
同じセンサーがずっと一緒に旅をするんですね。ただ、海の上は特殊ですよね。大きな船だと電波が届かなかったり、いろいろな電波が干渉したりもしそうです。
通信だけは、正直に言って、私たちがどれだけ頑張ってセンサーをつくっても、100%の品質を保証できる領域ではありません。エラーやタイミングによって、うまくつながらないこともあります。そもそも海の上では、電波が届かないエリアにも入ります。
そこでT1は、測ったデータを一定の間隔で本体にためていき、それをまとめて定期的に送る仕組みにしています。通信できない状態が続いても、本体は記録を続けていて、通信が戻った時点で、ためたデータを一気に送ります。時系列でデータを確かめられるので、大事なデータがなくなることはありません。
海の上では、船のAIS(船舶自動識別装置)の位置情報も組み合わせて、区間ごとにデータを整理します。だから、どの輸送手段の、どの拠点で何が起きたのかを、あとから追いかけられるんです。回収してから一括でデータを取り出す「V2」という機種もあって、こちらは中継の機器と組み合わせればリアルタイムでも使えます。

電波が届かない前提で、記録と送信を分けているんですね。すごくよく考えられた設計です…! 逆に、センサーが"異常"を出しすぎることはないんですか? コンテナの扉を開けただけで、温度が変わったりもしそうです。
まず校正です。国際規格のISO/IEC 17025に沿った、3点での温度の校正をしています。そのうえで、温度は一瞬の数値ではなく、基準を外れた状態がどれだけ続いたかで判断します。倉庫では平均動態温度(MKT)という指標も使います。衝撃は、2Gなどの基準を超えた回数と、起きた場所で判断します。
さらに、明るさの変化からコンテナの扉の開け閉めも分かるので、一時的な温度の変化が、扉の開け閉めによるものかどうかも確かめられます。知らせを出す基準も使う環境に合わせて決めて、いらない通知を減らしています。
異常が見つかると、あらかじめ登録した荷主や物流会社の担当者に知らせが届きます。「軽微」「中程度」「緊急」の3段階で、知らせる相手の役職を分けることもできます。医薬品なら、温度が外れた時点で、アプリが返品の手順を案内する使い方もあります。
韓国では義務、日本ではガイドライン
医薬品だと、返品の手順まで案内するんですね。韓国では、こうした仕組みがすでにたくさんの会社で使われているそうですね。韓国と日本では、求められ方に違いがありますか?
業界の特徴や、国の規制で違うところがあります。規制について言うと、実は日本より韓国のほうが強いんです。
韓国では、ワクチンなどを運ぶときに温度を測ってデータを残し、輸送の途中で適切に温度が管理されて品質に問題がなかったことを、データで証明しなければいけません。ほぼ義務になっているので、私たちのサービスは、実質的に使わざるを得ないものになっています。コロナ禍のころに、ワクチンの温度管理の問題が起きたことが、規制が強まった背景にあります。
日本では、これが厚生労働省のガイドラインという形です。ただ、ガイドラインだから何もしない、ということではなくて、日本の企業も強制ではない段階から、最低限の対応はされています。
記録を残すことが先にルールになった韓国と、ガイドラインの日本。規制のほかにも違いはありますか?
商習慣の違いがあります。日本は韓国やほかの国に比べて、商社や卸売の会社が業界で占める存在感が大きい印象です。
メーカー様は、いい製品の開発と製造に集中していて、そのあとの販売や流通は、商社や運送会社に頼る傾向が強い。私たちのサービスは、メーカー様が直接入れることも、商社や物流会社が入れることもありますが、費用は直接か間接かの違いはあっても、最終的にはメーカー様の物流コストになります。
だから営業の中心はメーカー様なんですが、日本のメーカー様は、流通や在庫の管理、代金の回収までを商社に任せていることも多い。今まで商社に任せて問題が起きていないなら、関心はあっても、あえて自社で管理の負担を持つことにためらいがある。どちらが管理の負担を持つのかという点で、日本の営業は難しさが一段上がります。
誰が管理の負担を持つのか、が日本ならではの壁なんですね。今はどう攻めているんですか?
違いを嘆くより、私たちのサービスのニーズが高い業界を優先しています。
韓国では、取引がいちばん多いのが製薬会社で、医薬品の低温物流には強みがあります。でも日本の医薬品は、大手の4つの医薬品卸の会社が業界を大きく担っています。韓国での強みをすぐ日本で生かすには、かなり時間がかかる。それに医薬品は、どちらかというと国内の流通が中心です。
そこで、医薬品に限らず、精密部品や半導体関連のお客様、海外への輸出が多いお客様へのアプローチを増やしています。海外とのやりとりが多いお客様は、輸送中の事故を経験されていることが多いので、お問い合わせもやはり多いんです。
逆に、国内の輸送については、日本の物流会社は自信とプライドを持っています。だから国内だけの輸送では、お問い合わせは比較的少ないんですね。
データが、事故の証拠から保険へ
日本の物流は、優秀すぎて出番が少ない…。だからこそ、勝負は国境の先なんですね。荷物のデータがたまっていくと、何が見えてくるんですか?
AIが力を発揮するのは、大量の輸送データから原因やパターンを見つけ出す場面です。温度や衝撃といった荷物の状態のデータに、天候や季節、コンテナの開け閉め、倉庫への出し入れのタイミングといった周りの状況のデータを組み合わせて分析します。
たとえば、2G以上の衝撃が特定の積み替えの地点に集中していれば、その区間での荷物の扱いが原因である可能性が高い、と示せます。そこから、次の輸送で危ない区間を予測して、事前の対策を提案するんです。
一方で、最後の判断は専門家に委ねるべきところです。センサーが測っているのは荷物の周りの環境で、製品そのものが壊れたかどうかまでは判断できません。医薬品が使えるかどうかは品質保証の部門が安定性のデータで判断しますし、責任の所在や保険金の支払いは、契約と査定で決まります。データが十分にたまっていない段階では、AIだけで因果関係を言い切ることもできません。
AIに任せきりにしない線引きが、はっきりしているんですね。実際に、データでお客さんの判断が変わった例はありますか?
韓国の特殊なディスプレイのメーカーの例があります。Control Towerを入れたあと、輸送中の破損が40%減りました。この結果は、2025年に韓国で開いたセミナーで公表しています。
日本では、お客様が導入前の検証をとても丁寧にされます。まず秘密保持の契約を結んで、小さな規模のPoCで効果を確かめてから本契約に進むのが基本の流れです。
PoCでは、対象の輸送ルートと製品、確かめたいリスク(温度か衝撃か)、異常とみなす基準を、お客様と一緒に決めます。センサーは数台から10台ほど、期間は1か月ほどが目安です。あわせて、センサーの取り付けと到着処理の担当の方、それから比較用に過去の事故の記録をご用意いただけると、効果がより分かりやすくなります。
過去の記録と比べて、効果を確かめるんですね。その"記録"を、保険にもつなげているそうですね。
Willog Visionは、「記録」「対応」「証明」「補償」の4つのステップを、一つのデータでつなぐ仕組みです。センサー、リアルタイムの管理画面、AIの分析、物流の保険を、私たちのグループで一貫して提供しています。
保険では、データが2つの役割を持ちます。一つは、事故の証拠です。事故が起きると、システムから取り出した加工していないデータをもとに証明用のレポートをつくり、すぐに保険会社に出せます。責任の所在の確認が早まり、保険金を受け取るまでの期間も短くなります。
もう一つは、保険料の根拠です。たまったデータが、お客様のリスク管理の力を証明するものになって、契約を更新するときに保険料を交渉する材料になります。
さらに韓国では、パラメトリック保険も用意しています。温度や衝撃、輸送の遅れが、あらかじめ決めた基準を外れると支払いの条件が自動的に成立して、事前に合意した保険金を15日以内に支払うことを目標にした仕組みです。前提になるのは、私たちのセンサーのように客観的に測れるデータがあること、そして支払いの条件と金額を契約で先に決めておくことです。なお、保険の引き受けと最終的な支払いは保険会社が行います。韓国では、物流保険を2026年の春から、Willog Visionを同じ年の9月から提供しています。
日本と韓国を行き来する荷物すべてを
測り方の確かさが、お金の話になる。日本では、これから何を目指していきますか?
いちばん解決したいのは、精密機器や半導体関連の国際輸送で、破損の原因や責任の所在が分からないという課題です。特に半導体関連は、日本と韓国の間で輸出入が多い品目なので、もっとシェアを取っていきたいと考えています。
いま実際に使われているのは、センサー、Control Tower、Intelligenceによる品質管理です。日本では、大手の物流会社や大手メーカーとPoCを進めている段階です。日本から出ていく荷物だけでなく、日本と韓国を行き来するものすべてに私たちの仕組みを入れていきたいですね。
もう一つは協業です。私たちの仕組みを入れた物流会社が、「データで輸送品質を証明できる物流サービス」を提供できるようになれば、その物流会社と一緒にメーカー様に提案しに行ける。長い目で見れば、たまったデータを日本でも保険や金融と結びつけて、輸送の品質を客観的に判断する基準にしていきたいと考えています。

最後に、読者の方に伝えておきたいことはありますか?
日本のメーカー様は、競争力があって、大切な商品をたくさんつくっています。私たちは、それを安全に運ぶことに力を入れたいと思っていますし、一緒に取り組んでくださる物流会社のパートナーも探しています。
私たちのサービスを使っていただくと、物流のデータ、リスクのデータがどんどんたまっていきます。このルート、この輸送手段、この天候やタイミングだと危ない、ということが見えてくる。そのデータを分析して、過去と同じ事故が起きないようにアドバイスするのはもちろん、保険など新しい事業も進めています。日本でも、一緒に取り組んでくださる会社をどんどん探していきたいです。
物流の価値は、“何も起きなかった”と証明できることへ移っていく
成さんの話を聞いて見えてきたのは、Willogの本当の商品が、センサーの先にある“荷物の旅を切れ目なく残した記録”だということでした。
日本の物流が優秀だからこそ、価値は国境で生まれる
「国内の輸送では、お問い合わせが少ない」。この言葉は、日本の物流の強さの裏返しでもあります。国内の配送は品質が高く、問題が起きにくい。だから記録の価値が見えにくいんです。
ところが荷物が国境を越えると、話が変わります。運ぶ会社が何社も入れ替わり、言葉も商習慣も違う。日本と韓国の間だけでも、半導体関連の装置や部品が年間で数千億円規模で行き来しています。そこで「どこで壊れたか」を示せる記録は、事故の後始末を早めるだけでなく、次の梱包やルートを決める材料になります。
2026年4月からは、大きな荷主に物流の責任者を置くことも求められるようになりました。法律がセンサーを義務づけたわけではありません。それでも、荷主が自分の荷物の"旅"を説明できるかどうかは、これから問われる場面が増えていくはずです。
電波が切れる前提で、設計されている
今回いちばん面白かったのは、通信について「100%の品質は保証できない」と言い切ったうえで、仕組みを組み立てていたことです。
記録と送信を分け、つながらない間は本体にためておき、戻ったら一気に送る。船の位置はAISで、荷物の状態はセンサーで取り、あとで重ねる。温度は一瞬の値ではなく、外れた状態が続いた時間で見る。どれも派手ではないけれど、壊れやすい環境でデータを守るための、地に足のついた設計です。
クラウドに常につながる前提のIoTは、陸の上では便利でも、海の上ではもろい。エンジニアの方には、"切れる前提"で設計された現場の機器の例として、ぜひ覚えておいてほしい話です。
記録は、責任の分け方と保険の値段を変えていく
センサーの記録が、事故の証拠になり、保険料の交渉材料になり、条件を満たせば自動で保険金が払われる。Willogが描いているのは、物流の品質がデータで"値段"になる世界です。
その分、測り方の確かさが問われます。校正、判断の基準、加工していないデータの提出。成さんがこうした測り方の細かな部分まで丁寧に説明してくださったのは、保険とつながる以上、そこが信頼の土台になるからだと受け取りました。
輸出の多いメーカーの方なら、まず1本のルートと、過去の事故の記録から試してみる価値があると思います。物流会社にとっては、「データで品質を証明できること」が、選ばれる理由になっていくかもしれません。
壊れた荷物の前で「誰が壊した?」と言い合う時間は、記録があれば、次の対策を話す時間に変わります。
SOURCES ── 出典・参考
- Willog『DATA TIMES インタビュー 質問票へのご回答』(2026年10月14日受領)
- 株式会社Willog Corporation『AIoT物流ソリューションのWillog、「国際物流総合展 2026」に出展』(PR TIMES、2026年9月1日)
- Willog『Willog Vision』発表(2026年9月17日)
- Lloyd's『Lloyd's Lab unveils Cohort 17』(2026年9月15日)
- Willog『T1』製品ページ
- Willog『Willog Insurance』
- 財務省『貿易統計 概況品別国別表 輸出(2025年)』
- 財務省『貿易統計 概況品別国別表 輸入(2025年)』
- 国土交通省『特定荷主向け周知用リーフレット』
- 聯合ニュース『インフルエンザワクチンの常温露出で国家予防接種を一時中断』(2020年9月22日)
- NEWSIS『常温露出のインフルエンザワクチン48万回分を回収』(2020年10月6日)
- 韓国 国家法令情報センター『生物学的製剤等の製造・販売管理規則』改正履歴
- 厚生労働省『医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインについて』(2018年12月28日)
- IMO『AIS transponders』
- ISO『ISO/IEC 17025:2017』
- USP『〈1079.2〉 Mean Kinetic Temperature in the Evaluation of Temperature Excursions During Storage and Transportation』
- Swiss Re Corporate Solutions『What is the most popular parametric solution? Cat in a box explained』(2020年4月8日)


