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肉離れの前に、脳が疲れていた? 目の動き1分で「脳疲労」を測るニューラルポートに聞く

体は元気なのに、脳だけが疲れている。そんな「脳疲労」を、VRゴーグルで絵を見るだけの1分の測定で数値にするのが、京都のニューラルポートです。Honda硬式野球部が毎日使い、あるプロスポーツチームのキャンプでは、走っているだけで肉離れなどをした選手がそろって高い数値だったといいます。共同創業者で取締役COOの林楓馬さんに、目と脳を横断した研究の出発点、けがとの関係の見え方、ルーティンが合う人と合わない人、ウェブカメラや車への広がり、ゾーン状態の科学的な再現という目標を伺いました。けがとの関係を研究がどこまで示しているかも、独自に調べています。

脳は目に出る。暗い紺色の背景の左側に、DATA TIMES編集長の小笠原海人が目を見開き、口を開けて驚いた顔で大きく写り、片方の目に視線計測の水色の照準が重なっている。中央に銀色の極太の文字で「脳は目に出る」、その上に「1分でバレる、脳の疲れ」。右側に、VRゴーグルを手にしたニューラルポート取締役COOの林楓馬氏。中央下に名前の札。
疲れた、と感じるとき、私たちはたいてい体のことを考えます。

脚が重い。肩がこる。眠い。でも、考える仕事を一日続けたあとの、頭がぼんやりして判断が鈍るあの感じ。あれも立派な疲れです。

研究の世界では、こうした頭の疲れは「精神的な疲労(メンタル・ファティーグ)」として調べられてきました。19の研究をまとめた2026年5月の分析では、頭を疲れさせる課題をこなしたあとは、スポーツの反応時間、技術、判断がそろって悪くなっていました。体力が残っていても、頭の疲れはプレーに出るわけです。

厄介なのは、この疲れが本人には見えにくいことです。だから国も、疲れを「本人の申告」ではなく機械で見守る方向に動き始めました。2026年9月、国土交通省は、運転する人の眠気やよそ見を検知して知らせる装置を、新しく発売される車に2031年9月から義務づけると発表しています。

私自身、大学では社会福祉を学び、大学院ではモーションキャプチャーを使ってサッカー選手の動きを解析していました。体の動きは、カメラで細かく測れます。でも、その動きに指令を出している脳の疲れは、ずっと測れないものだと思っていました。

その「脳の疲れ」を、目の動きから1分で数値にしようとしている会社が、京都にあります。株式会社ニューラルポートです。

使い方はシンプルです。VRゴーグルをかぶり、画面に出る絵を見る。それだけで、測定は1分ほどで終わります。社会人野球の強豪、Honda硬式野球部は、2026年シーズンからこのZEN EYE Proを使っています。週刊東洋経済の「すごいベンチャー100」(2026年10月26日発売号)にも選ばれています。

ミーティングルームで、Honda硬式野球部の選手たちが白いVRゴーグルをかぶって座り、脳疲労を測っている
Honda硬式野球部の選手が、VRゴーグルをかぶって脳疲労を測る様子(ニューラルポートのプレスリリースより)

そして今回、ニューラルポートの共同創業者で、取締役COOの林楓馬(はやし・ふうま)さんに、直接お話を伺えることになりました! 代表の島藤さんは、アメリカからの帰国便と重なったため、会社の成り立ちから研究の中身まで、林さんがまとめて答えてくださいました。

先に答えを言ってしまうと、林さんの話は「脳の疲れは、自分では気づけないまま、プレーやけがに出ているかもしれない」という問いに行き着きました。

  • 脳の疲れは、目に出る
    ニューラルポートは、VRゴーグルで絵を見てもらい、視線の動きと瞳の反応から、1分で脳の疲れを数値にします。
  • けがとの関係は、現場では見え始めている。研究としては答えの途中
    林さんは、あるプロスポーツチームのキャンプで、走っているだけで肉離れなどをした選手が、そろって高い数値だったと話します。一方で、けがとの関係を直接追った研究はまだ少なく、結論は出ていません。
  • 最後の目標は、ゾーン状態の科学的な再現
    測る、休ませる、その人に合った状態をつくる、ゾーンに入れる。この4段階で、脳を「アップデート」しようとしています。
林 楓馬
WHO IS

林 楓馬Fuma Hayashi

株式会社ニューラルポート 取締役COO

「人は全員、脳疲労しています。感じたことがないのは、意識したことがないだけなんです」── 林 楓馬(本記事の取材より)

  1. 学生時代関西学院大学 人間福祉学部社会起業学科で学び、在学中にドキュメンタリー映像の会社を立ち上げる
  2. 2024〜ニューラルポートに参加社内のクリエイティブ全般から関わり、共同創業者として経営に加わる
  3. 現在取締役COO開発の管理、現場での研究の設計、営業を担う。大阪大学大学院の修士課程にも在籍
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目と脳を、一人で横断した研究から

Q1小笠原

林さん、今日はよろしくお願いします! まずは林さんのこれまでのご経歴から伺ってもよろしいですか?

林

よろしくお願いします。会社のほうから話すと、ニューラルポートは2020年に設立した会社です。ただ、代表の島藤が研究所にいる間は、利益相反の関係で会社を動かせなくて、しばらく止まっていました。島藤が研究所を辞めてから、スタートアップとして本格的に動き出したんです。

僕自身は、2024年に途中から加わりました。もともと関西学院大学の人間福祉学部の学生で、4年生のときに、政治家さんやミュージカルの密着を撮るドキュメンタリーの会社をやっていました。島藤とは、学生起業家が集まるコミュニティで同期になって知り合ったんです。

僕もずっとスポーツをやっていたので、人の研究をして、スポーツのハイパフォーマーを支えるというこの会社の話は、もともと面白いなと思っていました。最初は、会社のクリエイティブ全般を担う係として関わっていたんですよ。動画だけでなく、リブランディングのリードなども担当していました。もともとやっていたドキュメンタリーのストーリーテリングをスタートアップに応用して、「ディープテックの魅せ方」が変われば、スタートアップの価値の伝わり方も変わるなと思ったのが、関わり始めたきっかけです。

Q2小笠原

最初はクリエイティブの担当だったんですね…! そこから、いまはどんなお仕事をされているんですか?

林

いまは、ほぼ全部ですね。開発の管理もしますし、研究も営業もします。クリエイティブ以外のところにも関わるうちに、自分にもできることがもっとあるなと思って。ちょうど映像の会社を続けるか迷っていた時期だったので、そちらはやめて、こちらに本格的に加わりました。

役割分担でいうと、資金調達と、研究のいちばん核になる神経科学の部分は島藤です。僕は、現場での研究を設計するのが得意なんです。いま、脳疲労の測定をスポーツチームに入れていますが、それだけでなく、オフィスで頭を使って働く人や、エッセンシャルワーカー、危険と隣り合わせの仕事の人のように、いろいろな仕事の人が脳疲労の状態にあるとき、どうパフォーマンスが下がるのか。それを領域ごとに研究を組み立てながら、現場に入れていっています。

その土台になっているのが、代表の島藤がやってきた研究です。

Q3小笠原

会社の核になっている、島藤さんの研究について教えてください。

林

島藤はもともと大阪大学の人間科学部で、人の行動を研究していました。テーマは、目の動きを測る「視線計測」を使って、自閉症やADHDなどの発達障害を見分けるというものです。

ずっと人の目の動きを研究していると、「そもそも、なぜ目に現れるのか」という疑問が出てきますよね。その答えを探すと、行き着くのは脳です。それで島藤は、自分から門を叩いて、京都の研究所のATR(国際電気通信基礎技術研究所)などで研究をしました。ATRでは、ニューロフィードバックという技術で、トラウマのような恐怖の記憶を弱める、かなりすごい研究をしていたんです。

視線はどちらかというと、心理学の領域で扱われます。脳の研究は神経科学や医学の領域です。この二つを両方の側面からやる研究者は、かなり少ないんですよ。最近アメリカに行っても、やっぱり領域は縦割りでした。島藤がたまたま目と脳という二つの研究を、一人で横断していた。それが会社の成り立ちの中で、すごく大きな部分を占めています。

Q4小笠原

目は脳の窓、なんですね…。島藤さんは、患者さんの研究から、なぜスポーツや働く人のほうに向かったんでしょう?

林

理由は二つあると聞いています。一つは、研究では一人の患者さんと向き合うことが多くて、それでは社会の大多数にインパクトを与えられない、という限界を感じたこと。

もう一つが、島藤の妹です。2つ下で、大学までボクシングをやっていて、スポーツ推薦で進学するほどでした。ところがプロに進むかという時期に、パンチが出なくなってしまった。いわゆるイップスです。それで競技を引退しました。自分がやっている研究で、もしかしたら妹を救えたんじゃないか。それが、もう一つの大きなきっかけだったそうです。

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「脳疲労」は、2年前まで通じなかった

Q5小笠原

イップスは、プロの選手にとっても深刻な問題ですよね。いま実際に使っているのも、プロのチームが多いんですか?

林

そうですね。プロ野球の選手も、ゴルフの選手も、ボクサーも、イップスはスポーツ業界でよく問題になります。

いま使ってもらっている例でいうと、Honda硬式野球部さんは、今年のシーズンの契約から、選手が毎日、朝と晩に測ってくれています。

ただ、僕らが海外に行く理由もここにあって、市場は国内より海外のほうが圧倒的に大きいんです。特にアメリカでは、スポーツから始まった技術が軍人の方に応用される、デュアルユースと呼ばれる使われ方もあって、大きな価値がついているスタートアップがたくさんあります。

林楓馬さんがモニターの前でノートパソコンを操作しながら、赤いジャージのHonda硬式野球部の選手たちにZEN EYE Proを説明している
Honda硬式野球部の選手たちに、ZEN EYE Proの使い方を説明する林さん(ニューラルポートのプレスリリースより)
Q6小笠原

毎日、朝と晩に…! それだけ手軽に測れるということですよね。脳波やMRIで脳を測るのとは、何が違うんですか?

林

頭に電極をつける脳波や、MRI、研究で使うfMRIといった方法は、研究ではよく使われますが、スポーツの現場では、活用がいまだに進んでいません。精度が高いかどうかだけでは、ビジネスとして現場に合わないんです。

だから、いかに簡単に測れて、しかもいろいろな面のデータが取れるか。そこで目を使っています。出すものは、前頭前野(おでこの裏側にある、考えたり判断したりする場所)の認知の疲れと、自律神経の疲れの二つです。この二つを縦軸と横軸にした図で見せています。

この形に行き着いたのも、2年くらい前なんですよ。僕が加わった2024年ごろは、脳疲労という言葉は、ほとんど通じなかったんです。

Q7小笠原

言葉すら通じなかったんですか…!

林

「脳のストレス」や「脳が疲れた」くらいは言われていましたけど、「脳疲労」という言葉が本当に出てきたのは、この1〜2年ですね。体感として、脳が疲れているのがよく分からないという日本人は、すごく多いんです。ハードワークしている人なら分かると思うんですけど、高齢の方向けに測るイベントでは「脳疲労なんて感じたことがない」と言われることもあります。

でも、人は全員、脳疲労するんですよ。感じたことがないというのは、意識したことがないだけで、実際は疲れているんです。だからまず気づいてもらって、そこからケアにつなげる。お店でケアの商品を選んでもらうような使い方もあります。

03

走っているだけで、肉離れ

Q8小笠原

気づかないまま、疲れた脳でプレーを続けてしまう…。さっきのイップスのような問題にも、脳疲労は関わっているんでしょうか?

林

ありますね。ずっと研究している中で見えてきたのが、脳疲労が高いときに、内側からのけがが起きるということです。サッカーでスライディングされてけがをするのではなく、走っているだけで肉離れを起こす。そういう、自分の体の中に原因があるけがです。

あるプロスポーツチームのキャンプに1週間ほど付いていたとき、その期間にそうした内側からのけがをした選手が5人ほどいたんですけど、全員が、僕らのスコアで55%以上だったんです。脳疲労のあとに、熱を出した選手もいました。

Q9小笠原

全員が…! チームの方も驚いたんじゃないですか?

林

最初は、たぶん僕らのことをそんなに信用していなかったと思います。でも、僕らのデータで数値が高かった人が、軒並みけがをしていたので、そこから見方が変わったと思います。

性能を疑われることは、いまも多いです。でも、パフォーマンスには二つの側面があると思っていて。パフォーマンスを上げていく側と、けがや不調でパフォーマンスが落ちるのを抑える側です。上げる側と、下がるのを防ぐ側、その両方で使える情報として届けられたらと思っています。

Q10小笠原

まだ答えの出ていない問いに、現場から挑んでいるんですね。上げる側と防ぐ側、それぞれどんなデータを見ているんですか?

林

この2年くらい、競技ごとに研究してきました。でも、新しい競技に行くたびに一から研究するのは、あまり健全なやり方じゃないと思っていて。いまは、ジャンプや握力のような、人間の基本的な力との関係を見ようとしています。最大の力が出るか、力の加減がきくか、瞬発力はどうか。そういう基礎の部分なら、サッカーでも野球でもモータースポーツでも、どの競技でも共通して使えるデータになると思うんです。

オフィスワークや運転となると、見るべき成績はまったく違うので、そこはやりながら柔軟に決めています。ドキュメンタリーのカメラマンをやっていたときも、柔軟で、フラットでいないといけなかったので、性に合っているんですよね。人間ってすごく難しいなと、毎回思いながらやっています。

04

ルーティンが合う人は、半分くらい

Q11小笠原

競技が違っても使える基礎があるんですね。逆に、人によって脳の疲れ方にタイプはあるんでしょうか?

林

ありますね。チームに使ってもらっていて、面白いデータになってきているところです。僕らは脳のパターンを8つのタイプで整理していて、それを疲労の4つの区分と掛け合わせて見ています。

たとえば、監督が組む練習メニューは、だいたいルーティンなんです。でも実際には、そのルーティンがはまるタイプと、はまらないタイプがいる。イメージとしては半々くらいで、ルーティンがはまる人は、意外と多くないんですよ。

Q12小笠原

意外と多くない…! 日本のスポーツは、ルーティンをすごく大事にするイメージがあります。

林

そうなんです。野球だと、願掛けのように、打席への入り方や試合前の過ごし方、アップの仕方を決めて、いつも通りにやる。日本ではそれが美しいとされていて、長い時間練習して、決めたメニューをきちんとこなすことが評価されやすいんです。

アメリカの選手だと、試合の30分前まで音楽を聴いていて、30分前くらいから体を温めて、それでめちゃくちゃパフォーマンスを出す、という人もいます。本来はそういう選手も多いはずなんですけど、国内だと、パフォーマンスが出ない人が二人いたら、ちゃんとやっている方が評価されるので、みんなそっちをやってしまう。

投手はわかりやすいですね。何時間前から柔軟を始めるかを自分で決めて、長めにやるタイプと、短くスパッとやって肩を温めるタイプがいます。来年くらいからは、脳の特性に合わせて、コーチと一緒に個別の練習メニューを変えていく取り組みも始める予定です。

Q13小笠原

実は私も今朝、ビジネス版の診断を受けてみたんです。結果は「回復設計型」でした。

林

おお、本当ですか。回復設計型は、結構珍しいタイプですよ。そういうタイプの人は、ちゃんと休んだほうがパフォーマンスが出るんです。実際、そう伝えて休んでもらったら「ちゃんと結果が出ました」という人もいました。みんな「これからはちゃんと休みます」と言うんですけど(笑)。

休まないまま間延びして、そこそこの力をだらだら出し続ける人と、休みを挟んで、毎回ピシッと高い点を出す人がいる。タイプによって、同じ努力でも出方が違うんです。休んだほうがパフォーマンスが出る人がいる、ということですね。

Q14小笠原

耳が痛いです…。ちなみに、林さんは何型なんですか?

林

僕は「文脈適応型(アダプティブ)」でした。状態に応じて、自分を変えていくのが合っているタイプです。回復設計型とは、全然違いますね。

暗い背景の中央に「Brain Performance Personalities」の円があり、そのまわりに熱量駆動型、準備完遂型、文脈適応型、安定再現型、フロー型、回復設計型、スイッチ型、没入集中型の8つのタイプが並ぶ
BPP診断の8つのタイプ。小笠原は「回復設計型」、林さんは「文脈適応型」でした(ニューラルポート提供)
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VRの1分から、ウェブカメラと車へ

Q15小笠原

タイプによって休み方まで変わるなら、働く人にもぜひ使ってみたいです。会社で使うとしたら、どんな形になるんでしょう?

林

まず、1分で脳疲労を測るところが土台です。そのうえで、VRと、ずっと視線を追えるメガネを使って、実際のパフォーマンスを調べる研究を頼まれることも増えてきました。メガネは、山本光学さんと一緒に開発を進めています。

ただ、プロのアスリートなら測定に時間を取れても、会社員が毎朝VRで測るのは、結構難しいですよね。そこで、これまで蓄積してきた目のデータを使って、いまこうして話しているようなパソコンのウェブカメラから、自動で測る仕組みをつくっています。部署の中で状態を共有できるようなサービスにして、パソコンのメーカーさんにも、標準で載せてもらえるよう提案しています。

最近増えているスマートオフィスと組み合わせて、社内で測った結果から、照明や空調を調整するような使い方もあります。測ってデータが分かっても、その先にどうケアしてパフォーマンスを上げるのか。その結果のほうが大事なので、僕らの測定はあくまで入り口だと思っています。測った先に何があるかなんです。

Q16小笠原

測った先…。スポーツやオフィスのほかにも、声がかかっている業界はあるんですか?

林

車ですね。車載カメラで眠気や疲れを検知する仕組みが、2031年から義務になるんです。こういうシステムは、1社が全メーカーに入っているわけではなくて、各社が自分たちの車に合わせてつくっています。それで、自動車の関係からも声がかかっています。

僕らのデータがあれば、眠気の検知のような仕組みも、元のモデルを少し調整するだけで応用が効きますし、そこで精度が上がれば、また別の領域にすぐ使える。顔や目をインターフェースにして、いろいろな業界に入っていけるんです。

Q17小笠原

アメリカにも行かれていますよね。日本とアメリカで、反応は違いますか?

林

まるで違いますね。日本では「脳疲労って、そもそも測る必要あるんだっけ?」とよく聞かれます。アメリカでは、そういう声はほとんど聞きません。体のコンディションのいちばん真ん中にあるのは脳だ、というのが当たり前なんです。

アメリカには、体は全部つながっていると捉える「ホリスティックアプローチ」という考え方が根づいていて、首が痛ければ、原因は別のところにあるかもしれないと考える。その捉え方なら、脳が疲れていれば運動のパフォーマンスが下がるのは当然、となります。日本では「なぜ体の動きに脳が関係するの?」と疑問に思われることが多いんです。

いまの日本のスポーツの市場は大きくないので、国内ではウェブカメラのサービスや車のように、別の領域に広げています。同じ技術でも、出口は全然違うんです。

END

ゾーン状態を、科学で再現する

Q18小笠原

同じ技術でも、国によって出口が違う…。最後に、ニューラルポートが最終的に目指しているものを教えてください。

林

僕らがやろうとしているのは、単なる脳疲労のマネジメントではありません。ゾーン状態を、科学的に再現すること。それがいちばん最後の目標です。

心理学ではフロー状態とも呼ばれる、人間のパフォーマンスがいちばん高い状態ですね。スポーツ選手がゾーンを体感したとき、脳がどうなっているのかが、最近の神経科学で少しずつ分かってきています。僕らの見立てでは、これは科学的に再現できる。

そこまでの道のりを、僕らは「Brain OS」として1.0から4.0の4段階に分けています。1.0は、脳疲労を検知すること。2.0は、疲れた脳をリラックスさせて、疲労を減らすこと。ここまではもう進んでいます。そこから、その人に合った状態をつくり、最後はゾーンに持っていく。そこで効いてくるのが、島藤がATRで研究してきたニューロフィードバックです。

いまはちょうど、注目が集まる段階だと思っています。

EDITOR'S TAKE ── 編集長・小笠原はこう読む

答えを出すのは、毎日の1分

肉離れの前に、脳は疲れていたのか。林さんの話と研究を並べて見えてきたのは、その答えを出す仕組みが、いま現場でつくられているということでした。

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疲れは「感じるもの」から「測るもの」へ

働く人の67.5%が、仕事で強い不安やストレスを感じる事柄を抱えています。それなのに、脳が疲れていると自覚できる人は多くない。林さんの「感じたことがないのは、意識したことがないだけ」という言葉は、ここを突いています。

社会の仕組みも動いています。新しく発売される車は2031年9月から、運転する人の眠気やよそ見を機械で見張るようになります。職場のストレスチェックも、2028年4月から従業員50人未満の事業場にも義務が広がります。こちらは質問票で答える仕組みです。自分で答える質問票と、研究室の大がかりな装置のあいだに、1分で測れる目のデータという選択肢が入ってきた。疲れは、我慢するものから、測って手当てするものに変わり始めています。

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けがとの関係は、まだ答えの途中

タイトルの問いに、いまの時点で答えるなら、こうなります。脳の疲れがプレーを鈍らせることには、研究の裏付けがある。けがの前ぶれになるかどうかは、現場で手応えが出始めた段階で、研究としてはまだ答えが出ていない。

プロスポーツチームのキャンプの話は、ニューラルポートの現場での観察で、比べる相手のいる研究として発表されたものではありません。けがとの関係を直接追った研究も、まだ人数の少ないものがほとんどです。

だからこそ、Honda硬式野球部のように、毎日朝晩測ってデータを積み上げる現場に意味があります。誰が、いつ、どんな数値のあとにけがをしたのか。それが何シーズン分もたまれば、問いに答えられるようになる。答えを出すのは、毎日の1分の積み重ねです。外部の研究者による検証が加われば、なお強くなるはずです。

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一人を見る仕事から、データの仕事へ

島藤さんの出発点は、一人の患者さんと、パンチが出なくなった一人の妹でした。林さんと私は、同じ人間福祉を学び、ドキュメンタリーで一人の人を撮ってきました。一人を深く見る仕事から来た人たちが、何千人分の目のデータを扱っている。ニューラルポートが、全員に同じ休み方を勧めず、8つのタイプで人を分けて考えるのは、その延長線上にあるように見えます。

スポーツチームの人なら、練習量だけでなく、選手の脳の状態を毎日記録しておくこと。会社で人を率いる人なら、休み方を一律に決めないこと。エンジニアや研究者なら、ウェブカメラや車のカメラで目のデータをどう扱うかという仕事が、これから増えていくこと。学生なら、福祉やドキュメンタリーから神経科学のスタートアップに行き着く道もある、ということ。脳の疲れが測れるようになると、それぞれの持ち場で考えることが一つずつ増えます。

SOURCES ── 出典・参考

  1. 株式会社ニューラルポート『公式サイト(Our Services・Our Story・Science・BPP診断)』
  2. 東洋経済新報社『週刊東洋経済「すごいベンチャー100」』(2026年10月26日発売号)
  3. 株式会社ニューラルポート『Honda硬式野球部との2026年シーズンのサービス利用契約締結』(PR TIMES、2026年4月13日)
  4. 株式会社ニューラルポート『三菱UFJモルガン・スタンレー証券などから資金調達を実施』(PR TIMES、2026年4月8日)
  5. 株式会社ニューラルポート『山本光学と資本業務提携を締結』(PR TIMES、2025年4月14日)
  6. JST J-GLOBAL『特許7557225号 情報処理システム、情報処理方法及びプログラム』
  7. Shimafuji A. ほか『Eye-tracking based mental fatigue assessment in VR environments』AHFE Open Access 178 (2025)
  8. 島藤安奈ほか『実用的な精神疲労評価モデルの構築:ZEN EYE Pro』日本バーチャルリアリティ医学会誌 25(1)(2026年6月9日公開)
  9. Bafna & Hansen『Mental fatigue measurement using eye metrics: A systematic literature review』Psychophysiology (2021年4月6日)
  10. Lu et al.『Effects of mental fatigue on sport-related reaction-time, technical, and decision-making performance』BMC Psychology (2026年5月29日)
  11. Wang et al.『Effects of mental fatigue on lower-limb explosive power and anaerobic capacity』Frontiers in Physiology (2026年9月23日)
  12. Sansone et al.『Exploring the Relationship Between Mental Fatigue and Injury Occurrence in Sport』Sports 14(4):148 (2026年4月10日)
  13. ATR『Fear memory reduction without consciousness』(2016年11月22日)
  14. 米国FDA『510(k) EarliPoint Assessment(K253442)』(2026年3月5日)
  15. 米国FDA『De Novo EyeBOX(DEN170091)』(2018年12月28日)
  16. 厚生労働省『令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)』(2026年8月7日)
  17. 国土交通省『ドライバーモニタリングシステムを義務化します』(2026年9月30日)
  18. 厚生労働省『ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策』
  19. 関西学院大学『「経営学」ではなく「人間福祉」の観点から社会起業を学ぶ』(2022年12月7日)
  20. Forbes JAPAN『Women In Tech 30』(2024年10月16日)
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