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BUSINESS── ARTICLE 032── ── 15 MIN READ

オランダ政府、公務員2.5万人減の計画書に「AIを過大に見積もるな」 “小さな政府”の全体設計を読む

オランダ政府が10月26日、国の機関の職員を2035年までに約2万5,000人分(約6人に1人)減らし、年35億ユーロを浮かせる計画を議会に示しました。世界は「AIで公務員を減らす」と報じましたが、15ページの書簡には「デジタル化とAIで人が減る効果を過大に見積もるな」と書かれています。効率化で届くのは削減額の3分の1まで。残りをどう生むのか、規則・データ・縦割りの4本柱の設計を一次資料で読み、Barclays、デンマーク、日本の定員管理と比べます。

オレンジの太い枠で囲んだポスター風の表紙。オレンジと紺の二色刷りで描いた役所の書類の山を背に、DATA TIMES編集長の小笠原海人が眉を寄せて疑う顔で、手のひらをこちらに向けて「それは違う」と止めている。黒い箱に白抜きで「AIじゃない」、その上に「公務員2.5万人減の正体」の文字
「デジタル化とAIで人が減る効果を、過大に見積もるな」。オランダ政府は10月26日、国の職員を約2万5,000人分減らす計画を議会に出しました。書簡に付いた資料の最後のページに、この一文が太字で置かれています。

世界のニュースは、この計画を「AIで公務員を減らす」と伝えました。Bloombergは「世界がオランダを見ている」とまで書いています。ところが15ページの書簡を最後まで読むと、政府自身がAIにかなり慎重なんです。

理由も書いてあります。この20年、役所の手続きは大量になり、デジタル化も自動化も進みました。それでも費用も人も減らなかった。かえって新しい仕事が生まれ、人手が増え、外部への委託も増えた、と。

オランダ政府の議会への書簡の15ページの一部。「Lessen uit eerdere taakstellingen(これまでの削減目標から学んだこと)」という見出しの下に、太字で始まる教訓が3つ並ぶ。2つ目は「Overschat de formatieve effecten van digitalisering en AI niet.」
書簡の付属資料の最後のページ。過去20年の削減を振り返った6つの教訓のうち、最初の3つです。2つ目が「デジタル化とAIで人が減る効果を過大に見積もるな」です。(オランダ政府の議会への書簡(2026年10月26日)15ページ)

計画の中身は大きなものです。2035年までに、国の機関で働く約16万人分のうち約2万5,000人分。6人に1人です。浮かせるお金は、2035年から毎年35億ユーロになります。

AIに頼りすぎないと言いながら、6人に1人を減らす。では、何で減らすのか。そこに、この書簡のいちばん面白い設計があります。

WHAT IS

機敏な政府Slagvaardige Overheid

国を「よりシンプルに、より賢く、より小さく」する、オランダ政府の改革

  1. 2025.03国の経費22%減に着手スホーフ内閣が、国の職員にかかる経費を22%、年10億ユーロ減らす作業を始めた
  2. 2026.01連立合意の柱になるD66・VVD・CDAの連立合意に「機敏な政府」の章が入り、規則を年500減らすと決めた
  3. 2026.02担当の副大臣を置くイェッテン内閣が発足。ファン・デル・ブルフ氏が改革の担当になり、閣僚のチームを率いる
  4. NOW2.5万人分の削減を示す2026年10月26日、2035年までの進め方を議会への書簡で示した

「機敏な政府(Slagvaardige Overheid)」は、2026年2月に発足したイェッテン内閣が掲げる行政改革です。担当のファン・デル・ブルフ副大臣が閣僚のチームを率い、規則を減らす、行政サービスをつなぐ、国の機関の生産性を上げる、省庁の縦割りを壊す、の4本立てで進めます。

対象になるのは、国の労働協約で働く「国の機関(Rijksdienst)」です。政策を作る省庁、検査や監督をする機関、税務・関税庁のように国民へ直接サービスを届ける実施機関からなり、書簡の付属資料によると2025年末で16万16人分(フルタイム換算)。7割は実施機関で働いています。警察・国防・裁判所などの約22万人分は、この数に入りません。

改革の出発点は、前のスホーフ内閣が決めた国の経費の削減です。その削減額は、イェッテン内閣の上乗せで2035年に年35億ユーロまで膨らみました。人手不足の中で行政サービスをどう続けるかは、日本の役所もまったく同じ課題を抱えています。

DATA TIMESは前回、マイクロソフトが約6万人に希望退職を示した話を記事にしました。会社が人を減らすとき、理由の詳しい説明はほとんど外に出てきません。国は違います。議会に出す書簡に、数字も、進め方も、過去の失敗まで書きます。

AIとデータを仕事で扱う私たちが気になったのは、「AIで何人減るか」がどこにも書かれていないことでした。代わりに並んでいたのは、規則、データの受け渡し、会議、評価、ウェブサイトの数です。書簡と付属資料の15ページを、頭から読みました。

01

7年で4割増えた国の職員を、6人に1人減らす

章の扉絵。高い窓が並ぶレンガ造りの官庁の廊下を、書類を持った職員の列が奥へ進み、手前に並んだ6脚の椅子のうち1脚だけが空いている場面と「7年で4割増 6人に1人減らす」の文字

まず、オランダの国の機関がどれだけ大きくなったのかを見ておきます。

オランダの国の機関の職員数の推移を示した図。大きく+41%。2018年の11.4万人分から、2025年の16.0万人分へ、線が右肩上がりに伸びている
オランダの国の機関(省庁・監督機関・実施機関)の職員数。各年12月31日時点のフルタイム換算で、警察・国防・裁判所・独立行政機関は含みません(編集部作成)。(オランダ政府の議会への書簡の付属資料1(表1)をもとに編集部作成)

2018年末に11万3,500人分だった職員は、2025年末に16万人分。7年で約41%増えました。省庁の政策・支援部門の職員は2019年からの6年で56%、検査・監督の職員も48%増えています。

なぜここまで増えたのか。書簡は、この7年で国の新しい仕事と、重くなった仕事がたくさん加わったと説明します。たとえば気候・エネルギーへの移行を担う職員や、行政サービスの現場を立て直す事業「Werk aan Uitvoering(実施機関の立て直し)」の職員は、期限付きの予算で雇われてきました。そのため書簡は、2019年や2020年の人数に「簡単に戻せる」という見方は、増えた仕事を無視していると書いています。

削減額は、2035年に年35億ユーロ

その膨らんだ国の機関に、前のスホーフ内閣と今のイェッテン内閣は、経費の削減目標を積み上げてきました。書簡の表によると、削減額は2025年の3億9,300万ユーロから、2027年に9億100万ユーロ、2030年に24億9,100万ユーロと増え、2035年に34億9,000万ユーロに届きます。

これを人数に直したのが、約2万5,000人分という数字です。書簡はこれを「おおまかな見積もり」と呼んでいます。給料の高い職員が減るのか、低い職員が減るのかで、同じ金額でも人数が変わるためです。iBestuurによると、前の内閣は22%、約3万5,000人分の削減を掲げていました。今回は約16%に下げたことになります。

減らす割合は、組織によって20%から60%

6人に1人は平均の話です。実際の負担は、組織によって大きく違います。

警察と国防は対象外です。刑務所を運営する機関、情報機関、検察、在外公館なども、一部またはすべての削減を免れています。そのぶん、残る省庁や実施機関に負担が寄ります。書簡によると、多くの組織で約20%。期限付きの予算が切れる組織では約45%、一つの例では約60%にもなります。

国の職員の7割は実施機関で、国民に直接サービスを届けています。書簡も、この削減がサービスの質や継続に響きうると認めています。

ハーグの中心にあるビネンホフの空撮。尖った2本の塔を持つ中世の騎士の館の周りに足場が組まれ、クレーンが立っている。奥には高層ビル群が並ぶ
2026年5月、改修工事が続くハーグのビネンホフ。オランダの議会が長く置かれてきた場所です。写真:Sneeuwvlakte(CC BY-SA 4.0)

計画は、12月1日に下院の委員会で審議されます。どの組織をどれだけ減らすのかは、半年以内にまとめる複数年の計画と、来年春の予算の見直しで具体的になります。

02

効率化で届くのは3分の1。残りは「やめる仕事」を選ぶ

章の扉絵。木の台の上でオランダのチーズがチーズスライサーで薄く削られ、後ろに書類の束が積み上がっている場面と「効率化は3分の1 残りは選ぶ」の文字

ここからが、書簡でいちばん読みごたえのあるところです。付属資料の最後に、政府は「過去20年の削減から学んだこと」を6つ並べています。

一律に削っても、政府は大きくなり続けた

1つ目の教訓は、削り方です。この20年、削減のほとんどは「チーズスライサー」だった、と書簡は書いています。各部署に削る割合だけを割り当て、中身は部署に任せるやり方です。

その結果、削減は紙の上では達成されました。それでも、新しい事業が次々に足されて、政府は大きくなり続けた。

そこで今回は、効率化でできる範囲をはっきり線引きしました。オランダ経済政策分析局(CPB)は、国の機関の効率化は年0.5%が現実的だとしています。政府はこれに従い、効率化は年0.5%までと決めました。

オランダの国の機関の削減額の内訳を示したドーナツ型の円グラフ。円の3分の2が色付きで、真ん中に2/3。右に、削減額のうち「仕事をやめる・減らす・やり方を変える」で生む分が約3分の2、効率化(年0.5%まで)で生む分が約3分の1
2035年に年35億ユーロとなる削減額のうち、効率化で届くのは約3分の1。残りは、国の仕事のどれをやめ、減らし、やり方を変えるかを選んで生み出します。人数ではなく金額の内訳です(編集部作成)。(オランダ政府の議会への書簡(2026年10月26日)11・15ページをもとに編集部作成)

年0.5%の効率化で届くのは、削減額の約3分の1です。残りの約3分の2は、国がどの仕事を「やめる」「減らす」「やり方を変える」かを選ばないと生まれません。書簡は、この選び方こそ過去20年で「ほとんど成功しなかった」ことだと認めています。

「デジタル化とAIで人が減る効果を、過大に見積もるな」

2つ目の教訓が、冒頭の一文です。

書簡によると、この20年で役所の手続きは大量になり、デジタル化も自動化も進みました。しかし、費用と人が減るという約束は果たされませんでした。かえって新しい仕事が生まれ、必要な人手が増え、外部の人を雇う「委託」も増えた。いまもいくつもの組織が、古い情報システム(レガシー)の重荷を抱えている、とまで書いています。

デジタル化すれば人が減る、とは限らない。システムを入れると、システムを守る人、データを直す人、新しくできるようになったサービスを回す人が必要になります。AIを積極的に使うと決めた政府が、AIの効果を一番慎重に見ているんです。

採用は止めない

3つ目は、急ブレーキの副作用です。書簡は、採用を止める方法を過去に使ったとき、何が起きたかを書いています。ほかに行き先のある優秀な人から辞め、若い人が入ってこなくなり、育つはずの人が育たなかった。その結果、何年もたってから「世代ごと人がいない」状態になった、と。

iBestuurによると、政府は今回、採用の凍結を見送りました。4つ目以降の教訓も、労働協約と人員の計画を守ること、変えるための投資を先に用意すること、目標の定義をはっきりさせて中央で管理すること、と地に足のついたものが並びます。

03

AIは最後のひと押し。主役は規則、データ、縦割り

章の扉絵。古い官庁の部屋の壁が崩れて大きな穴が開き、床に散らばった書類が光の帯のように向こう側へ続いている場面と「AIは最後 主役は規則と壁」の文字

では、3分の2をどう生むのか。書簡の答えは、AIの話から始まりません。

書簡は冒頭で、「機敏な政府をつくること」を削減目標と同じ意味で使うのは誤りだと書いています。国をよりシンプルで賢くした結果として、小さくもなれる。順番はそちらだ、と。取り組みは4本立てです。

1本目 規則を年500以上なくす

1本目は規則です。10月1日から、すべての省庁が「なくすか簡単にする規則の数」の目標を持ちました。合わせて年500以上。半分は市民や専門職向け、半分は事業者向けです。

面白いのは、ドイツにならった「立証責任の逆転」です。規則を担当する省庁が、その規則がいまも必要だと示せなければ、規則をなくす。新しい規則には、一定の期間がたつと自動で効力を失う「サンセット条項」を付けるかどうかを、毎回確かめます。

書簡は、事故や不祥事のたびに規則と監督を足す反応を「リスク規則反射」と呼び、これを抑えると書いています。例に挙がったのは赤十字です。災害への備えの資金を、10の省庁と複数の自治体などから、55の流れで受け取り、それぞれに申請と確認の手続きがある。政府はこれを、市民団体への補助金の出し方を見直す題材にしています。

2本目 政府が持つデータは、二度聞かない

2本目は行政サービスです。いまオランダでは、役所どうしのデータの受け渡しを、ひとつずつ個別に決めなければなりません。決まっていないことが多いため、国民は同じ情報を何度も出し直し、受け取れるはずの手当を受け取れずにいます。国の委員会は、これを「法の支配の破られた約束」とまで呼びました。

政府は、市民のためだけに使うデータ共有の仕組みを2年以内に作るよう指示しました。政府がすでに持っている情報は、二度と聞いてはいけない。手本はベルギーとエストニアです。そのデータを取り締まりや捜査には使わないことも、同時に保証すると書いています。

ここには苦い経験があります。書簡は、手当をめぐる過去の問題(toeslagenaffaire)を例に挙げ、市民に求める書類や情報が複雑になりすぎて、かえって問題を悪化させたと書いています。

同じ柱には、2026年夏前に動き出した「オランダ・デジタル・サービス(NLDD)」も入ります。最初の3つの仕事は、国が自分で管理できる政府のクラウドの設計、事業者が国と取引しやすくなる窓口、そして法律を「そのまま動くプログラム」として書く方法づくりです。

3本目 机は職員2人に1つ。AIはここに入る

3本目が、国の機関の生産性です。AIはここに出てきます。

  • 庁舎は、机を職員2人に1つの割合にし、余った建物は手放す
  • 調達は、条件を減らし、まとめて買い、AIを使えるところを洗い出す
  • 情報システムや庁舎の管理など内部のサービスは、「原則参加・原則共同・原則標準」でそろえ、例外を最小限にする

AIについての書き方は、慎重です。安全、データの質、そして国が自分でデータとシステムを管理できること(主権)を条件に、AIを広く使っていく。そのためには情報基盤を変え、仕事の流れそのものを根本から見直す必要がある。具体的な目標と削減の計画は、2027年1〜3月に示すとしています。

4本目 年400件の評価を、本当に要る10〜20件に

4本目は、書簡が「ハーグの壁」と呼ぶ縦割りです。省庁の間、政策を作る側と実施する側、国と自治体の間に壁があり、調整と報告と監督が積み重なっています。

数字を見ると、壁の厚さが分かります。

項目いまの数方針
常設の諮問機関28大幅に減らす(目標は年内に決める)
諮問委員会約150大幅に減らす
政策の評価年約400件本当に要る10〜20件を毎年選ぶ
政府のウェブサイト約1,700(うち中央の省庁が約1,000)数を見直す

出典:オランダ政府の議会への書簡(2026年10月26日)をもとに編集部作成

年400件の評価を、10〜20件に絞る。評価は学ぶために要るけれど、数が多すぎて生かされず、費用ばかりかかっている、というのが書簡の見立てです。

進み具合は、年2回、数字で報告する

計画には、進み具合を測る仕組みも付いています。事業者の規則にかかる負担の費用、国民と企業が感じるサービスの評価、そして国の機関の大きさ(経費、職員数、外部から雇った人数)です。英国の首相官邸で改革の進捗管理を担ったマイケル・バーバー氏の手法と、ロッテルダム市の目標管理を参考に作り、春と秋に議会へ報告します。

04

人から減らす会社、仕事から減らす国

章の扉絵。左はガラス張りのオフィスから出ていく人の列、右は官庁の机の上で書類の山が順に低くなっていく場面と「会社は人から 国は仕事から減らす」の文字

同じ10月、AIと人の数をめぐるニュースはオランダのほかにもありました。並べると、選び方の違いが見えてきます。

英国のBarclays、年内に約5,000人

英国の大手銀行Barclaysは10月22日、2026年の年末までに約5,000人、社員の約5%を減らすと明らかにしました。Reutersの報道によると、約1,000人はすでに減っていて、削減の約6割はソフトウェア開発者などの後方の部門です。同じ日に発表した7〜9月の税引き前利益は23億ポンドで、1年前より12%増えました。

AIの位置づけについて、ベンカタクリシュナンCEOは記者に、AIは「ケーキの上の飾りで、ケーキそのものではない」と話しています。マイクロソフトの6万人の希望退職と同じく、業績がいい会社が、人の数を先に絞る形です。

デンマークは「減らす」ではなく「空ける」

国の側で、オランダと違う選び方をしたのがデンマークです。デンマークの政治メディアAltingetによると、政府と自治体の連合会(KL)、地域の連合会(Danske Regioner)は2025年6月、AIで2035年までに公共部門の5,000万時間、約3万人分の仕事を空ける目標を示しました。

空けた時間は、国民と直接向き合う仕事に回す、という考え方です。人を減らす約束ではありません。それでも労働組合からは、目標に現実味がないという声が上がりました。

日本は「定員を増やさずに」、先にDXの人を足す

日本の国の行政機関は、どうでしょうか。国の行政機関の定員を管理する閣議決定「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」には、「デジタルの力をいかして、人手不足が深刻化する中、現在の国家公務員の定員を増やさずに行政サービスを持続できる環境を整備する」とあります。

この方針のもとで、内閣官房の資料によると、2026年度はDXを進めるための定員を396人増やしました(2年で782人)。行政でAIを使える環境を整える人に89人、各府省のDXの司令塔役に45人が入っています。そのうえで、政府全体で116人分の定員の削減を先送りし、「DXの効果が出るまでの間」に必要な人を確保するとしています。

オランダ・デンマーク・日本の行政とAIの選び方を比べた3枚のカードの図。オランダは減らす、2035年までに国の職員約2.5万人分。デンマークは空ける、2035年までにAIで約3万人分の時間。日本は増やさず保つ、2026年度にDXの定員を396人増やした
行政の人手とAIをめぐる、3つの国の選び方。オランダとデンマークは2035年までの目標、日本は2026年度の定員の措置です(編集部作成)。(オランダ政府の議会への書簡、Altingetの報道、内閣官房の資料をもとに編集部作成)

オランダは減らし、デンマークは空け、日本は増やさずに保つ。言葉は違っても、3つの国はどれも2035年前後までの長い時間でAIの効果を見ています。そのうえで、オランダと日本に共通するのが、AIを入れる前に、先に人とお金を投じることです。日本はDXの人を先に足し、オランダは「変えるための投資を先に」と教訓に書きました。デジタル化の効果は、すぐには出ない。そこは同じ見方です。

EDITOR'S TAKE ── 編集長・小笠原はこう読む

AIの前に「やめる」を決めた国が、小さくなれる

「AIで公務員2.5万人減」という見出しから読み始めて、書簡を閉じたときには、まったく違う話を読んだ気がしました。

VIEW01

「AIで減らす」計画の中身は、ほとんどがAIの外にある

書簡の中でAIを具体的に書いたのは、3本目の柱の中の2か所(調達と、AIの活用)だけでした。人を減らす力の大半は、規則をなくすこと、データを二度聞かないこと、評価と会議と諮問機関を減らすことから来る設計です。効率化全体でも削減額の3分の1まで、と自分で線を引いています。

それでも世界の見出しは「AIで減らす」でした。分かりやすいからだと思います。でも実際に国を小さくするのは、AIという道具より、「やめる」と決める政治の判断です。オランダの書簡は、そこから逃げずに書いている点で読む価値がありました。

VIEW02

足し算で入れたAIは、仕事を増やす

2つ目の教訓は、会社にもそのまま当てはまると思います。今の仕事の流れの上にAIを足すと、AIの出力を確かめる人、データを整える人、新しくできるようになった仕事を回す人が必要になります。デジタル化の20年で、オランダの役所が実際に通った道です。

AIで本当に軽くなるのは、先に「やめる仕事」を決めた組織だと私たちは見ています。会議を1つ減らす、報告書を1本やめる、承認を1段飛ばす。その空いた場所にAIを入れる。順番を逆にすると、仕事が増えます。

VIEW03

日本が真似したいのは「二度聞かない」と「評価は年20件まで」

日本の役所にとっても、会社にとっても、すぐに使える考え方が2つあります。1つは、組織がすでに持っている情報は、二度出させないこと。引っ越しや手当の申請で、同じ紙を何枚も書いた経験がある人は多いはずです。もう1つは、評価や報告を「全部やる」のをやめ、本当に要るものを毎年選ぶことです。

就職を考える学生にとっては、行政が「規則を年500減らす」「法律をプログラムとして書く」と言い出していることも面白いポイントです。データとプログラムが分かる人が、国の仕組みそのものを作り直す側に回れる。オランダの書簡は、そういう時代の入口に見えました。

SOURCES ── 出典・参考

  1. オランダ内務・王国関係省(Eric van der Burg 副大臣)『Voortgangsbrief Slagvaardige Overheid』議会への書簡と付属資料1 (2026年10月26日)
  2. オランダ政府『Kabinet werkt aan slagvaardige overheid: eenvoudiger, slimmer en kleiner』(2026年10月26日)
  3. オランダ政府『Eric van der Burg(副大臣の紹介)』
  4. iBestuur『Niet 35.000, maar 25.000 ambtenaren minder』(2026年10月)
  5. DutchNews.nl『Van der Burg plans to use more AI so government can cut payroll』(2026年10月27日)
  6. Insurance Journal(Bloomberg配信)『Can AI Replace Government Jobs? The World Is Watching the Dutch.』(2026年10月28日)
  7. Business Day(Reuters配信)『Barclays to slash 5,000 jobs in AI-powered cost-cutting drive』(2026年10月22日)
  8. The Star(The New York Times配信)『Barclays to cut 5,000 jobs in AI-driven push to lower costs』(2026年10月23日)
  9. Altinget『Politisk enighed om nye mål: Kunstig intelligens skal frigøre mindst 30.000 årsværk』(2025年6月10日)
  10. Altinget『Fagforeninger er skeptiske over for ny AI-målsætning』(2025年6月)
  11. 内閣官房『令和8年度 DX推進に関する定員措置の結果(概要)』第4回各府省庁DX推進連絡会議・第21回デジタル社会推進会議幹事会 合同会議 資料1 (2026年3月31日)
  12. オランダ政府『Kabinet aan de slag met 22 procent structurele bezuiniging bij rijksoverheid』(2025年3月14日)
  13. オランダ政府『2026-2030 Coalition agreement: Let's get to work. Building a better Netherlands』(2026年2月23日)
  14. Wikimedia Commons(Sneeuwvlakte)『Renovatie Binnenhof (1) (2026-05-04)』
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