お湯は、電池だった。家の電気をAIで動かすグリッドシェアジャパン西尾社長に聞く
晴れた昼、日本では太陽光の電気が余って、発電を止める日が増えています。その一方で、屋根に太陽光をのせた家の多くは、昼の電気を1kWh7〜8.5円で売り、夜に約30円で買っています。このずれを埋めているのが、約4万台の機器とつながるグリッドシェアジャパンです。家庭には蓄電池やエコキュートをAIで「自動運転」するサービスを、電力会社には何万軒分を束ねた「見えない発電所」の力を。西尾仁志社長に、ビジネスのしくみから、家ごとに天気と暮らしを読むAI、空の雲から屋根の発電を読む仕組み、お風呂のタンクを「電池」に変える発想までを伺いました。

電気のこと、じつは全然知らないかもしれない。 最近、そう思うようになりました。
DATA TIMESでは先日、AIデータセンターと電気の話を取り上げました。でも電気は、データセンターだけのものではありません。家の照明も、冷蔵庫も、お風呂のお湯も。毎日あたりまえに使っている、いちばん身近なインフラです。
そこで私が注目したのが、太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)です。日本も、2040年度には電気の4〜5割を再エネでまかなう目標を、国のエネルギー基本計画で掲げています。では、いまの日本は、その再エネをどれくらい使いこなせているのか。
調べてみて、驚きました。晴れた春の昼には、太陽光の電気が作られすぎて、使いきれないんです。送電線があふれないよう、電力会社は発電所に「いまは止めてください」とお願いします。これを「出力制御」と呼びます。止めた電気は2024年度だけで全国約16億kWh。一般家庭およそ40万世帯が1年間に使う量です(編集部計算)。2026年3月には東京エリアでも初めて行われ、全国すべての地域で起きるようになりました。
お金で見ても、もったいなさは同じでした。屋根に太陽光をのせた家は、10年間、決まった値段で電気を買い取ってもらえます。始まった年の値段は1kWh48円。ところが10年が過ぎると、東京電力エナジーパートナーの買取は8.5円、九州電力は7円まで下がります。夜に買う電気は、その数倍です。
昼に作った電気を安く売って、夜は高い電気を買っている。 せっかくの再エネを、家の中でも使いきれていないんです。
家には、電気をためておける機器もあります。蓄電池と、お湯をタンクにためておくエコキュートです。この「もったいない」を、AIで機器を動かしてなくそうとしているのが、伊藤忠商事グループのグリッドシェアジャパン。メーカーの違う蓄電池やエコキュート、約4万台とつながり、1軒ずつ「いつためて、いつ使うか」を決めています。
そして今回、なんとそのグリッドシェアジャパンの社長、西尾仁志さんに、直接お話を伺えることになりました!
先に答えを言ってしまうと、グリッドシェアジャパンには2つの顔があります。
- 家庭には、AIの「自動運転」
いま持っている蓄電池やエコキュートを、AIが毎日かしこく動かしてくれる。月額のサービスです。 - 電力会社には、何万軒分の「束ねた力」
たくさんの家の機器をまとめて動かし、電気が足りない時間や余る時間の調整役になる。
お湯のタンクまで電池として使い、何万軒分を束ねると、電力会社が頼れる小さな発電所のような存在になるんです。ここから、ひとつずつ伺っていきます。

西尾 仁志Masashi Nishio
グリッドシェアジャパン株式会社 代表取締役社長
「4万件の機器とつながって、お客様毎に4万通りのオーダーメイドの制御をしています」── 西尾仁志(本記事の取材より)
- 1999大学院で最適制御を学び、伊藤忠商事へ東京工業大学大学院でシステム科学を学び、数理モデルで物事を最適に動かす研究に取り組む。伊藤忠では物流、投資、企業再生、M&Aなどを経験
- 2011〜2018MBA、そして英国のAIと出会うミシガン大学でMBAを取得。英国のスタートアップMoixaとの提携を担当し、2018年にグリッドシェアジャパンを設立
- NOWグリッドシェアジャパン 代表取締役社長電力の個人間取引を手がけるTRENDEの代表を経て、2025年4月から現職
1974年生まれ。千葉大学工学部を卒業し、東京工業大学大学院でシステム科学を学んだのち、1999年に伊藤忠商事へ入社しました。英国の蓄電池AIを日本に持ち込み、2018年にグリッドシェアジャパンを設立。2022年には、AIの開発元を買収した米Lunar Energyとの提携も主導しています。2023年6月から2025年3月まで電力の個人間取引を手がけるTRENDEの代表取締役を務め、2025年4月にグリッドシェアジャパンの社長に就きました。
家庭には「自動運転」、電力会社には「束ねた力」
西尾さん、今日はよろしくお願いします! さっそくなんですが、グリッドシェアジャパンって、どんなお客さんに、どんなサービスをしている会社なんでしょう?
大きく分けて2つです。
1つ目は、ご家庭です。太陽光と、蓄電池やエコキュートをお持ちの家に、AIのサービスを月ごとの契約で提供しています。AIがその家の電気の使い方を覚えて、機器をいちばん得になるように動かす。お客さんにとっては、手間なく電気代が下がるサービスです。
2つ目は、電力会社さん向けです。こちらは、たくさんの家の機器をまとめて動かすサービスなんですが、あとで詳しくお話ししますね。

では、まずご家庭向けから伺わせてください。いま家にある蓄電池に、あとから「AIの頭脳」を足すようなイメージでしょうか?
まさにそうです。対応する機器をお持ちなら、申し込むだけで始められます。家に何か追加で取り付ける必要もありません。いまは伊藤忠、オムロン、京セラの蓄電池と、ダイキンのエコキュートに対応しています。
あとはAIが勝手にやってくれるので、お客さんの手間は一切ないんです。
あれ、メーカーがいろいろなんですね。たとえば蓄電池とエコキュートが別の会社のものでも、まとめて動かせるんですか?
そこが、私たちのいちばんの強みなんです。
メーカーさんは、自分たちの機器を上手に動かすことはできます。でも、違うメーカーや違う機器になると、分からなくなる。蓄電池の人は蓄電池には詳しいけれど、エコキュートのことはよく分からない。逆もそうです。
私たちは、メーカーの違う機器を、お客さんの目線でまとめて動かせる。それに、蓄電池とエコキュートを自分で動かそうと思ったら、リモコンも別々じゃないですか。そういうのを全部なくして、家全体でいちばん得になるように動かす。いまで言えば、リモコンさえも要らない。AIが入っているので。
リモコンもいらないなんて、ちょっと憧れます(笑)。実際に使っている方は、どれくらい電気代が下がっているんでしょう?
浮いた金額は、アプリで毎日見られるようにしています。平均すると、蓄電池とエコキュートの両方で月4,635円、年間にすると5万円ほどです。
定期的にお客さんへのインタビューもしているんですが、「電気代が4〜5割下がった」「4月から1万5千円くらい安くなった」「AIに全部お任せで問題ない」といった声をいただいています。だから、解約率はすごく低い。一度入ったら、基本的にやめないですね。
導入後、電気代は大幅に下がり、昨年と比べると半額ほどになりました。例えば、4月の電気代は昨年比で約1万5千円ほど安くなっており、しっかりと電気代の削減効果が出ていることを実感しています。
AI制御の蓄電池を導入してから、電気代が導入前と比べて約4割も安くなり、非常に満足しています。
蓄電池の運用はAIにすべてお任せしていますが、生活に不便を感じることはなく、特に問題なく稼働してくれています。
電気代が半分、1か月で1万5千円も。 公式サイトに並ぶこの声を読んで、思わず二度見しました。しかも、やっていることは「AIにお任せ」だけなんです。
家の中だけでも十分すごいんですが……。最初におっしゃっていた、電力会社向けのサービスというのは?
1軒ずつ最適にしても、まだ余っている力があるんです。それを束ねて、電力会社さんからのお願いに合わせて動かす。デマンドレスポンスというサービスです。
電力会社さんから「いま電気が足りないので、蓄電池から出してください」「いま余っているので、ためてください」とお願いが来たら、お客さんの同意のもとで、その通りに動かすんです。お客さんにとっては少し損になる場面もあるのですが、そのぶん電力会社さんからポイントがもらえるので、差し引きで得になるようにしています。いまは東北電力さん、東京電力さん、中部電力ミライズさん向けにやっていて、ほかの電力会社さんとも話を進めています。
何万軒もの蓄電池が、いっせいに動く……。それって、もう一つの大きな発電所みたいなものですよね?
そうです。小型の発電所くらいの感じになります。
その先には、お客さんの電気を、市場で売り買いするサービスの準備も進めています。機器を持つことで、電気代が下がったり、ポイントがもらえたり、いずれは市場で取引できたりする。こういう機器を持てば持つほど得をする。だから、みんなが入れたくなる。それが究極の目標です。
お話を伺っていると、家にある電気が、ちょっとした「財産」みたいに思えてきました。
そうそう、まさにそのイメージです。
家庭には、電気代が下がる得と、安心。停電に備えて電気をためておけるので、防災にもなります。電力会社さんには、電気の過不足を整える力。それをまたお客さんに還元する。家の価値と、電気の仕組みの価値を、同時に上げるのが目標です。お客さんが得をする機器なら、機器そのものも選ばれる。メーカーさんにとっても、いい話なんですよ。
売るより、使うほうが得になった
ここからは、西尾さんご自身のお話も聞かせてください。そもそも学生時代は、どんなことを研究されていたんですか?
大学・大学院では、システム工学をやっていました。ものごとを数式で表して、いちばんうまく動くように制御する。そういう研究で、いまでいうAIのような研究も少しやっていました。
ただ、研究者になるより、それをビジネスで生かしたいと思ったんです。それで伊藤忠に入りました。最初の配属は物流です。ずっと机の上で理論をやってきたので、ものが現実にどう動くのか、現場を知りたかったんですね。
理論から、いきなり物流の現場へ。どんな毎日だったんでしょう?
入社した1999年は、ちょうどドットコムバブルの頃でした。アメリカの物流センターで働く機会があって、スポーツ用品をネットで売る、いわば走りのような会社の倉庫にいたんです。
毎日やっていたのは、在庫の数とシステム上の数が合っているかを、現地のスタッフと一緒に確かめる仕事。倉庫の設計にも関わりました。社員がストックオプションを持って、夜中まで熱心に働いている。スタートアップの熱気を、そこで初めて肌で感じました。
そこから、どうやってエネルギーの世界に入っていったんですか?
その後は、企業の買収やベンチャー投資の仕事をしました。投資するというのは、事業を運営するのとほとんど同じなんですよ。この分野ならいける、と見きわめる力がつきました。
2011年には、会社の制度でMBAに行かせてもらいました。そこで学んだ最先端の話題が、地球に優しい経営、サステナビリティです。ちょうどリチウムイオン電池と太陽光が広がり始め、EVが走り始めた時期でした。帰国してからは、家庭用の蓄電池を売る仕事にも関わるようになります。いまのビジネスモデルは、当時MBAで議論していたことが大半なんです。
蓄電池を売る立場から見て、何か「もどかしさ」のようなものはあったんでしょうか?
ありました。カギになったのが、FITという制度です。FITってご存じですか?
すみません、じつはよく分かっていなくて……。どんな仕組みなんでしょう?
家の屋根に太陽光をつけると、作った電気を、家庭用なら10年間、決まった値段で電力会社が買い取ってくれる制度です。当時は1kWhあたり40円を超える値段で、電気代がいまより安かったので、もう破格でした。発電した電気を売れば売るほど得をする。それで、家庭の太陽光が一気に広がったんです。
ところが、10年が終わると話が変わります。買取の値段が、7円から11円くらいまで下がるんですよ。
えっ、そんなに下がるんですか。じゃあ、10年が終わった家は、どうすればいいんでしょう?
買う電気は、当時でも30円くらい、いまは40円くらいします。8円で売って、30円で買うくらいなら、自分の家で使ったほうが断然いいですよね。だから蓄電池を買って、昼の電気をためて夜に使う。
でも、天気を見て、家族の予定を考えて、毎日自分で充電と放電を切り替えるのは無理です。それならAIが、電気料金のメニューと太陽光の発電と、その家の電気の使い方を学習して、代わりに最適に動かせばいい。
蓄電池も、売って終わりではなく、売ったあともお客さんに得をし続けてもらう形にしたかった。いまで言うサブスクです。そう考えていたときに出会ったのが、イギリスのスタートアップ、モイクサでした。

イギリスで数百台だったAIが、日本で数万台に
そのイギリスの会社は、どんな会社だったんですか?
モイクサは、家庭の蓄電池をAIで動かすサービスを、イギリスで数百台くらいの規模でやっていた会社です。伊藤忠がそこと資本提携をして、AIを日本で展開する権利を得ました。これがグリッドシェアジャパンの始まりです。2018年、伊藤忠の蓄電池「スマートスター」にAIを載せて、売り始めました。
イギリス生まれのAIを、そのまま日本で使うことはできたんですか?
いえ、そこは大変でした。半年から1年くらいかけて、日本向けに作り直しています。向こうには英語の資料しかなかったですし、日本の電気の料金や仕組みのことも知らなかった。
たとえば、日本には電力会社ごとに、時間帯で値段が変わるいろいろな料金プランがあります。そういうことを私たちが一つずつ教えて、日本版を作っていきました。いまは7年経って、向こうにも日本人エンジニアがおります。
日本で鍛えられたAIが、今度は世界に出ていった……ということでしょうか?
まさにそうです。日本では4万台ほどの機器とつながっています。これだけの数の機器を、数万台の単位で動かすAIは、当時ほかになかったんです。
その実績に目をつけたのが、アメリカのルナー・エナジーという会社で、モイクサを買収しました。いまはアメリカでも10万台ほど、全世界で14万台ほどの蓄電池やエコキュートを、同じAIが動かしています。作っているのはイギリスのチームで、イギリスからアメリカや日本に配信している形です。
AIは、家ごとに「天気」と「暮らし」を読んでいる
冒頭で「AIの頭脳」と言いましたが、その中身がずっと気になっていました。AIは家の中で、いったい何をしているんでしょう? 私は「何時に充電して、何時に使うか」を決めているのかな、くらいのイメージなんですが。
だいたい合っています。ポイントは、その判断の材料がものすごく多いことなんです。
まず、お天気。それから、その家の電気の使い方です。平日と週末では違いますし、夏休みとふだんでも違う。太陽光パネルの大きさで発電量が変わりますし、電気料金のプランも家ごとに違う。蓄電池の大きさもまちまちです。それを全部AIが読み込んで、いちばん得になるように動かします。
だから、4万人のお客さんがいれば、4万通りのオーダーメイドの制御になるんです。
4万通り……! 家ごとに全部違うんですね。そんなに細かく分けられるものなんですか?
結構な量のデータを回しています。お客さんの過去のデータをもとに、「どう動かすのがいちばん得か」という問題を毎日解きながら、AIが先を予測しているんです。
じつはこういうことを、私は大学院のときに勉強していました。当時は理論でしたけど、理屈は分かっている。巡り巡って、学生時代に習ったことを、いまビジネスで使えているんですよ。
学生時代の研究が、20年越しにつながったんですね。新しくAIを入れた家だと、最初は何も知らない状態ですよね。どのくらいで賢くなるんですか?
だいたい1週間くらいで、その家に追いつきます。そこからは、使ってもらう期間が長いほど精度が上がっていく。最初にぐっと上がって、あとは少しずつ、というイメージですね。
とはいえ、「自分で設定すればいいのでは?」と思う方もいそうです。人が設定するのと、何が違うんでしょう?
たとえば、明日は雨の予報だとします。人が設定すると、「雨だから、夜のうちに安い電気で満タンにしておこう」となりますよね。
でも太陽光って、曇りや小雨でも、結構発電するんですよ。AIは48時間先までの予測を常に作っているので、「曇りだけど、これくらいは発電する。だから夜に買う電気は少しにして、残りは昼の太陽光でためよう」と判断できる。人には判断しにくい、最適な判断ができるんです。
機器にもともと入っている運転モードは、安全側に作ってあるので、そこまで攻めません。これを毎日、手でやるのはまず無理ですね。

お湯は、いちばん身近な電池
ここまで蓄電池のお話でしたが、最近はエコキュートも動かし始めたと伺いました。でもエコキュートって、お湯を沸かす機械ですよね。それがなぜ電気の話になるんですか?
エコキュートは、ふつう夜中に、安い電気でお湯を沸かしてタンクにためておくんです。朝や夜に使うお湯を、まとめて作っておくわけですね。
一方で、蓄電池を持っている家でも、昼の太陽光は余ります。蓄電池はお昼の12時ごろには満タンになってしまうので、そこから先の電気は行き場がない。だったら、夜中にやっていたお湯の沸かし上げを、その余っている昼にずらせばいいんです。
エコキュートは、1.5kWくらいの電気で4〜5時間かけて、じっくりお湯を沸かすんです。お湯は、沸かしてためておけば夜まで使えます。電気を、お湯の形でためておけるわけです。
お湯のタンクが、電池の代わりになるんですね……! でも、蓄電池より難しいところもあるんでしょうか?
あります。エコキュートを1軒ずつ動かすサービスは、ほかではどこも出していないんですよ。技術的に難しいからです。
エコキュートだけの家だと、屋根の太陽光がいまどれだけ発電しているのか、データが取れないんです。蓄電池なら分かるんですけど、エコキュートは電気のメーターとつながっていない。どれだけ発電するか分からないのに、沸かす時間を昼にずらすのは怖いですよね。お湯が足りなくなったら大変ですから。
そこで私たちは、衛星のデータを使っています。天気予報だけでなく、空から雲の厚みまで見て、そのお客さんの屋根の太陽光がどれくらい発電するかを予測する。それをもとに、沸かす時間をずらすんです。これができるのは、いまのところ業界でうちだけです。
家の中が見えないなら、空から見ればいい……! 発想がおもしろいです。ほかのやり方だと、どうなるんでしょう?
ふつうは、HEMS(ヘムス、家のエネルギー管理システム)という機器を追加して発電量を測るか、お客さんに「この時間なら電気を使えます」と毎回入力してもらうことになります。HEMSは高いものだと5万円から20万円くらいする。
私たちはそれが要らないので、あとからでもすぐに始められるんです。お客さんは家のWi-Fiとエコキュートをつないで、メーカーのアプリに登録しておくだけ。あとは申し込んでもらえば、私たちがつなぎに行きます。
空から読んだ予報で、実際のお湯はどう沸いているのか、気になります。実際のお客さんの家の様子を教えていただけますか?
実際のお客さんのデータがあります。AIの予測と、実際の動きを重ねてみると、ほぼ予測どおりに動いています。
たとえば、よく晴れた今年5月30日の、蓄電池とエコキュートの両方をお持ちのお宅です。太陽光で蓄電池をためながら、エコキュートのお湯を昼に2回に分けて沸かしています。ふだんなら夜中にやる沸かし上げを、タンクの40%から100%まで、60%分。この日は6kWhほどを昼にずらしたので、夜中の電気が1kWh30円とすると、この日だけで180円くらい浮いています。
小雨と曇りだった6月18日の、千葉県松戸市のお客さんの例もおもしろいですよ。太陽光は6kWあるのに、この日は最大でも3.6kWしか出ていない。それでも、発電はしているんです。人なら「明日は雨だから」と前の晩に沸かしてしまうところを、AIは前日のうちにこの天気を読んで、夜中には沸かさず、昼に沸かせば足りると判断しました。
エコキュートを先に沸かして、終わると同時に蓄電池の充電に切り替える。両方が電気を取り合わないように動かしています。この日は2kWh分、60円くらいです。


1日180円、雨の日でも60円。小さく見えて、積み重なると大きそうですね。1か月だと、どれくらいになるんでしょう?
まさに「ちりも積もれば」なんです。蓄電池で月2,115円。エコキュートは、まだ実証のデータからの試算ですが月2,520円。合わせて月4,635円、年間にすると5万円ほどの電気代が下がっています。
分かりやすいのが、太陽光で作った電気のうち、自分の家で使えた割合です。太陽光だけだと3割くらい。残りの7割は、安く売るしかない。それがエコキュートにAIをつけると5割くらい、蓄電池なら7割くらい、両方そろえると9割くらいまで上がります。


つながる機器を、もっと増やす
最初に、メーカーをまたいで動かせるのが強みだと伺いました。とはいえ、メーカーごとに仕様が違うと、つなぐのは大変そうです。技術の面で「こうなったらいいな」と思うことはありますか?
正直に言えば、メーカーさんの仕様をそろえてほしい、標準化してほしいという思いはありますよ(笑)。
でも、それに合わせに行くのも、私たちのノウハウなんです。不便なところをなくすのが私たちの役目で、技術の難しさを一つずつ越えていくこと自体が、私たちの価値だと思っています。技術的には、できますから。
つながる機器を増やすには、開発の力も要りそうです。昨年調達された資金は、どこに使っていくんですか?
いちばん大きいのは開発です。つながる機器を増やすこと。お客さんがどのメーカーの組み合わせを買っても、グリッドシェアに入れる世界を作りたい。いまは蓄電池とエコキュートですが、対象はさらに広げていきます。メーカーさんにも方針や技術的な事情があるので、一つずつ解決しながら話を進めています。
あとは、良さを知ってもらって、使ってくれる人を増やすこと。いま使ってくださっている方の満足度も上げたいので、アプリを充実させたり、アンケートに答えてくれた方にポイントをお渡ししたりもしています。
微々たるものかもしれませんが、こうした積み重ねで、日本の脱炭素にも貢献できると思っています。
電気の主役は「発電所」から「時間」と「家」へ移り始めている
取材のあと、西尾さんの話に出てきた「昼に沸かす」「メーカーをまたぐ」「束ねる」を、国内外のデータと並べてみました。家の電気代の話に見えて、その奥には、日本の電気の使い方そのものが変わる兆しがありました。
1,000万台のエコキュートは、日本中に眠る「お湯の電池」
エコキュートが世に出たのは2001年。それから24年で、国内の累計出荷は1,000万台を超えました。日本中の家の庭先に、巨大な湯たんぽが置かれてきたようなものです。そのほとんどは、夜に沸かす前提で動いています。
もし、その沸かし上げを晴れた昼に移せたら。ITmediaの記事が伝える経済産業省の勉強会の試算では、エコキュートの半分が昼に沸かすだけで、年52億kWhの電気の使い道を昼にずらせます。2024年度に全国で止めた太陽光・風力の約16億kWhの、3倍以上です(1年間の量どうしの比較で、止めている時間とぴったり重なるわけではありません)。
新しく蓄電池を何百万台も買わなくても、すでに家にあるタンクが電池の代わりになれる。足りないのは、それを動かす「頭」とつながる道でした。HEMSが2.7%の家にしかない国で、追加の機器なしに、雲から発電を読んでエコキュートを動かす。グリッドシェアジャパンの取り組みは、この眠っている1,000万台を起こしにいく仕事なのだと思います。
メーカーをまたぐ会社は、家の電気の「OS」になる
スマートフォンでは、カメラも地図も決済も、別々の会社が作ったアプリなのに、1台の上で当たり前に動きます。間に、OSがあるからです。
家の電気は、まだその手前にいます。蓄電池はA社のアプリ、エコキュートはB社のリモコン。西尾さんの言う「蓄電池の人は、エコキュートのことが分からない」は、アプリごとにスマホが1台ずつ要るような状態なんですよね。
グリッドシェアジャパンは、その上にもう一枚、家全体を見る層をかぶせています。だから、蓄電池を先にためるか、お湯を先に沸かすかを、家全体の損得で決められる。国のDR readyが整えば、つなぐ手間は減っていくはずです。それでも、家全体を見て決める役は、一つのメーカーの外にしか置けない。標準化が進むほど、この層の価値はむしろ上がる。私はそう読みました。
家は、電気を「買う場所」から「出す場所」になる
フリマアプリが広がって、押し入れに眠っていた服や本が「売れる資産」に変わりました。電気でも、同じことが起きようとしています。
カリフォルニアでは、Sunrunが8万世帯以上の家庭用蓄電池を束ね、夕方に電気が足りなくなる時間に、最大42万5千kWを送り出す体制を作りました。ドイツでは、2025年7月末の時点で、家庭用を中心に約220万台の蓄電池が動いているとドイツ太陽光発電協会が発表しています。
日本はどうか。日本電機工業会の統計では、家庭用蓄電池の累計出荷は113.6万台。台数ではドイツの半分ほどですが、エコキュートの1,000万台を足すと、景色はがらりと変わります。そして2026年度からは、家庭の機器も電気の市場に参加できるようになりました。
ここから先、注目したいところは立場によって違います。
- 住宅や設備を扱う企業、電力会社:家を「売って終わり」から「つないで価値を出し続ける」へ。機器を売るときに、つながる仕組みまで一緒に考えられるかが分かれ目です。
- エンジニア、データの仕事をしている人:天気から発電を読み、家ごとの暮らしを学び、何万台を同時に動かす。予測と最適化と大量の機器の制御が、日本の家の中で、いま本番の規模で動いています。
- 学生、これから家を持つ人:屋根の上の電気は、売るものから使い切るものへ、そして束ねて市場に出すものへ。家の価値の測り方そのものが変わろうとしています。
AIが電気をたくさん使う時代は、家の電気が電気の仕組みを支える側に回る時代でもある。今回の取材で、いちばん持ち帰りたかったのはこの見方です。
屋根の上の電気を、家の中で使い切る
太陽が出ている時間と、人が電気を使う時間はずれている。その単純なずれが、昼に止める発電と、夜に買う高い電気を生んでいました。
グリッドシェアジャパンがやっているのは、そのずれを、家にすでにある機器で埋めることです。蓄電池を賢く動かし、お湯を昼に沸かし、何万軒分を束ねて電力会社の力にする。電気代がAIまかせになる家が増えるほど、日本の電気は少しずつ、晴れた昼を無駄にしなくなっていきます。
SOURCES ── 出典・参考
- グリッドシェアジャパン『会社概要』
- グリッドシェアジャパン『グリッドシェアとは』
- グリッドシェアジャパン『サービス』
- グリッドシェアジャパン『よくあるご質問』
- グリッドシェアジャパン『経済効果の試算方法』(2026年8月)
- 八木橋威夫・小林和幸・森麻衣子『AIによる家庭用蓄電池の充放電制御に対する実測評価』(日本建築学会、グリッドシェアジャパン掲載)
- グリッドシェアジャパン『16.8億円の資金調達と新株主5社の参画』(2025年12月4日)
- グリッドシェアジャパン『TEPCOカーボンニュートラルプログラムに採択』(2025年6月)
- グリッドシェアジャパン『ダイキンとエコキュートのAI最適制御サービスを開始』(2026年4月20日)
- グリッドシェアジャパン『中部電力ミライズと家庭向けDRサービスを開始』(2026年6月18日)
- グリッドシェアジャパン『京セラEnerezzaシリーズに対応』(2026年7月8日)
- 伊藤忠商事『英国Moixa社との資本・業務提携について』(2018年1月29日)
- 英国政府『Smart battery business signs deal to supply in Japan』(2018年2月6日)
- Lunar Energy『Official press release』(2022年8月)
- Lunar Energy『Lunar Energy raises $232 million…』(2026年2月4日)
- Sunrun『Sunrun’s California distributed power plant expands』(2026年7月14日)
- ベンチャー.jp『グリッドシェアジャパン 西尾仁志 代表取締役社長』(2026年4月10日)
- 資源エネルギー庁『次世代電力系統WG 資料1 再生可能エネルギー出力制御の長期見通し等について』(2026年3月16日)
- 日本卸電力取引所『スポット市場 取引結果』
- 資源エネルギー庁『どうする?ソーラー』
- 資源エネルギー庁『住宅用太陽光発電の買取期間満了』(2019年2月19日)
- 家電Watch『太陽光発電の余剰電力買取制度』(2009年)
- 東京電力エナジーパートナー『再エネ買取標準プラン』
- 九州電力『買取期間満了後の買取』
- パナソニック『おひさまエコキュートを発売』(2022年3月2日)
- 日本冷凍空調工業会『エコキュート累計出荷1,000万台突破』(2025年3月)
- 日本電機工業会『蓄電システム自主統計 2025年度出荷実績』(2026年6月5日)
- 気象衛星センター『ひまわりの観測』
- 環境省『家庭部門のCO2排出実態統計調査 令和5年度』
- ITmedia スマートジャパン『DR readyの要件とは』(2024年9月27日)
- 資源エネルギー庁『第7次エネルギー基本計画』(2025年2月18日)
- 電力広域的運営推進機関『需給調整市場における機器個別計測・低圧リソース導入について』(2025年9月26日)
- BSW-Solar『Batteriespeicher』プレスリリース(2025年10月6日)
- 資源エネルギー庁『エネルギー基本計画』
- 環境省『家庭部門のCO2排出実態統計調査 世帯当たり電気使用量』(令和5年度)


