マイクロソフト、純利益3割増の週に社員の4人に1人へ退職の誘い 6万人の希望退職は、AIのためなのか
マイクロソフトが10月26日、米国・カナダ・インド・英国の約6万人、社員の約27%に希望退職を提示しました。2日後の決算は純利益32%増。同じ3か月で、データセンターなどへの投資は1年前の2倍の394億ドルに膨らんでいます。対象のチーム、退職金の条件、AIに使うお金の伸び、Amazon・Meta・Googleの同じ動き、日本の黒字企業の早期退職の数字まで一次資料で確かめ、「AIが人を置き換えたのか」に答えます。

書いたのは、人事のトップのエイミー・コールマン氏です。公式ブログの発表によると、対象は米国・カナダ・インド・英国で、参加する組織の「レベル70以下」の社員。社内の職位でいえば、副社長級より下の社員です。条件を書いたメールは、発表から数時間のうちに一人ひとりへ届く仕組みです。
人数は約6万人。6月末の社員は約22万3,000人なので、社員の約4人に1人にあたります。
そして2日後の10月28日。同じ会社が発表した7〜9月の決算は、売上高が19%増、純利益が32%増でした。同じ3か月で、データセンターなどの設備に使ったお金は394億ドル。1年前の2倍です。
業績はいい。お金も使っている。それでも、4人に1人に「辞める道もありますよ」と声をかける。増益と希望退職が、同じ週に並んだんです。

この建物に向かうお金と、人に向かうお金。今回の6万人は、その2つの配分の話です。
マイクロソフトMicrosoft
WindowsとOfficeの会社から、クラウドとAIの計算工場を貸す会社へ
- 2023.011万人を削減2023年3月末までに、社員全体の5%に満たない1万人を減らすとナデラCEOが社内に伝えた
- 20252度の削減5月に約6,000人、7月に約9,000人を減らしたと報じられた
- 2026退職制度と削減4月に米国の約8,750人へ退職制度を示し3割超が応じた。7月にはXbox部門を中心に4,800人を減らした
- NOW6万人に希望退職2026年10月26日、4か国のレベル70以下の社員に、期間を区切って退職の条件を示した
マイクロソフトは、パソコンの基本ソフト「Windows」や表計算・文書作成の「Office」で知られる米国の会社です。いまの稼ぎ頭は、企業がインターネット越しに計算機を借りるクラウド「Azure」と、そこで動かすAI。仕事用のAIアシスタント「Copilot」もここに入ります。
規模は桁違いです。2026年7〜9月の3か月だけで売上高は922億ドル、純利益は366億ドル。Azureの売上は1年前より48%増えました。社員は年次報告書(10-K)によると、6月末で約22万3,000人。米国に12万1,000人、米国の外に10万2,000人います。
日本の読者にとっても、パソコンを開けばほぼ毎日触れている会社です。ただし今回の希望退職の対象は4か国で、日本法人の日本マイクロソフトは入っていません。
DATA TIMESでも、記事を作る途中でAIを毎日使っています。だからこそ「AIで仕事が減るのか」は、私たち自身の問いでもあります。
6万人という数字が世界中で報じられた週、私たちが気になったのは、人数そのものよりお金の向きでした。業績がいい会社が、なぜ今、人に「辞める道」を示すのか。そのお金はどこへ向かうのか。マイクロソフトの発表と決算、年次報告書、ほかの巨大IT企業と日本企業の数字を並べて確かめました。
4人に1人に示された「辞める道」の中身

まず、今回の制度が何なのかを確かめておきます。マイクロソフトは名前を「Voluntary Exit Offer(自主退職の提示)」としています。会社が辞める人を決める解雇とは違い、条件を見た社員が自分で選ぶ仕組みです。
対象は「副社長級より下」、選ぶのは組織ごと
コールマン氏の発表によると、制度を出すかどうかは組織ごとに決めます。事業の優先順位、お客さんへの約束、人の必要数で判断するため、同じレベルでも、部署によって声がかかる人とかからない人がいます。
では、どの部署が入ったのか。Reutersの報道によると、財務、人事、ゲームのXbox、Windowsとパソコン機器の部門、そしてAIの製品を作るチームとCopilotのチームです。セキュリティ、マーケティング、企業向けの営業は外れています。
ここは意外でした。AIを伸ばしたい会社なのに、AIの製品のチームにも声をかけている。今回の話は「AIの部署を残して、ほかを減らす」ほど単純ではないようです。
退職金は「いつもの条件に近い」
条件は、Business Insiderが最初に報じ、イスラエルの経済紙Calcalistも伝えた内容によると、次のとおりです。
- レベル64以下は、勤続6か月ごとに基本給の1週分
- レベル65〜67は、勤続6か月ごとに基本給の2週分(上限は39週分)
- レベル68は、給与の12か月分
- 株の受け取りの権利は、勤続に応じて6か月か12か月続き、健康保険も付く
- 12月の初めまでに決めて、年末に退職する
たとえばレベル60で勤続10年なら、基本給の20週分、5か月弱です。マイクロソフトはTechCrunchに、条件は会社の通常の退職金に近いと説明しています。上乗せはそれほど大きくない、ということです。
春の制度では、3割超が手を挙げた
この会社は、2026年の春にも似たことをしています。米国で、年齢と勤続年数の合計が70以上の約8,750人に退職の条件を示し、3割超が応じました。コールマン氏は今回の発表で、この春の経験をもとに制度を作ったと書き、「私たちにとって新しい試みで、そこから学ぶ」と結んでいます。

年次報告書で社員数を並べると、もう一つのことが見えてきます。各年6月末で、2023年は約22万1,000人、2024年と2025年は約22万8,000人、2026年は約22万3,000人。3年間ほとんど増えていないんです。その間に、会社の売上と投資は大きく膨らみました。
6万人の全員が辞めるわけではありません。春の制度と同じく3割前後が応じれば、2万人弱になる計算です。それでも、増えない社員数を、さらに一段絞る動きであることは変わりません。
お金の行き先は、AIの計算工場

では、お金はどこへ向かっているのか。答えは決算の数字にはっきり出ています。

2026年7〜9月の3か月で、建物や計算機に使ったお金は394億ドル。前の年の同じ時期は194億ドルでした。決算説明会でエイミー・フッド最高財務責任者(CFO)は、リースで借りる分も入れると452億ドルで、その約4分の3は、数年で使い切るCPUやGPU(AIの計算に使う半導体)だと話しています。次の10〜12月は500億ドルを超える見込みです。
年間で見ると、さらに大きな数字になります。フッド氏は7月の時点で、2026年の1年間で約1,750億ドルを使う見込みを示していました。10月の説明会では、外部から借りる計算機の納入が遅れているため、暦年の支出は約1,700億ドルになるとも話しています。
希望退職の費用も、決算の見通しに入っている
フッド氏は同じ説明会で、費用の見通しに「最近発表した希望退職の見積もりを含めている」と述べました。何人が応じると見ているかは明かしていません。
一方で、営業費用を押し上げている理由として挙げたのは、研究のための計算機と、人材への投資でした。人を絞りながら、AIを作れる人には投資を続ける。会社のお金の配り方が、ここで切り替わっていることが分かります。
AIの売上はすでに伸びています。Copilotを毎日使う人は1年で5倍を超え、5万席以上を契約するお客さんも8倍を超えました。稼いだお金を、次の計算機に回す。その輪を速く回すほど、会社の支出に占める人の割合は小さくなっていきます。
「AIが書くコード」は、2025年に2〜3割
AIが社内の仕事をどれだけ担っているかを示す、公式の新しい数字はありません。ナデラ氏は2025年4月、社内のプログラムの2〜3割はすでにAIが書いていると話していました。1年半前の数字で、会社はその後、新しい割合を出していません。
AIが仕事を担うから人を減らす、と会社がはっきり言ったわけではありません。言えるのは、データセンターなどへの投資が1年で2倍になり、社員数は3年間増えていないという事実です。
Amazon、Meta、Googleも同じ道を進む

この動きは、マイクロソフトだけのものではありません。米国の巨大IT企業は、2025年から2026年にかけて、そろって同じ方向へ動いています。
Facebookを運営するMetaは、2026年4月に社員の約1割、約8,000人を減らし、6,000人分の採用枠も取り消しました。社内メモは、削減を「ほかの投資を相殺するため」と説明しています。9月末の社員は6万6,775人で、1年前より15%少なくなりました。その一方で、2026年の設備投資は1,350億〜1,450億ドルを見込んでいます。
Googleを持つAlphabetは、2026年2月に広告営業の部門で希望退職を募りました。2025年にも検索や広告、YouTubeの部門で同じ制度を出しています。7〜9月の設備投資は513億ドルで、マイクロソフトを上回ります。
Amazonは「AIで減る」と先に言った
いちばん早くはっきり言ったのは、Amazonのアンディ・ジャシーCEOでした。2025年6月の社員への手紙で、生成AIが広がれば、本社部門の社員の総数は減るだろうと書いています。同じ年の10月に約1万4,000人、2026年1月に約1万6,000人の本社部門の仕事を減らしました。
ただ、ジャシー氏は決算説明会で、削減の理由はお金でもAIでもなく、組織が大きくなりすぎて階層が増えたことだと話しています。AIのせいだと言う会社と、言わない会社がある。どちらにしても、AIに巨額を使う会社ほど、人の数を絞っているのは共通しています。
減っているのは、若い人の「採用」
働く人の側のデータもあります。スタンフォード大学のチームが米国の給与データで調べた2026年8月の報告によると、AIの影響を受けやすい職種で働く22〜25歳の人の数は、本来の伸びより約19%少なくなっていました。1年前の調査では15%だった差が、広がっています。
注目したいのは、その中身です。報告は、主な理由は解雇ではなく、若い人を採らなくなったことだとしています。経済全体では、AIによる大規模な仕事の置き換えはまだ見られない、とも書いています。今いる人を辞めさせるより先に、入り口が狭くなっているんですよね。
日本でも、黒字の会社が早期退職を募る

日本ではどうでしょうか。東京商工リサーチは、上場企業が早期・希望退職を募った件数を毎年数えています。

2025年度の集計では、46社が合わせて2万781人を募りました。前の年度の約2.5倍です。そのうち直近の決算が黒字の会社が32社、募集人数の81.3%を占めました。いちばん多かったのは三菱電機の約4,700人です。
2026年に入ってからは落ち着いています。1〜9月の集計では22社・5,345人で、人数は前の年の同じ時期の半分以下でした。それでも黒字の会社が6割を超えるという形は変わっていません。
理由に「AI」を挙げる会社も出てきた
同じ集計には、早期退職の理由に「AIやDXの進展に伴う業務プロセスの変化」を挙げた沖電気工業も入っています。668人が応じました。
日本の早期退職は、もともと年齢の高い社員を対象に、事業の入れ替えとあわせて行うことが多いものです。業績が悪くなる前に、黒字のうちに人の構成を組み替える。マイクロソフトの今回の動きと、考え方の芯は同じです。違うのは規模と、AIに使うお金の桁です。
大和総研の2026年10月のレポートは、AIが雇用にどれだけ響くかには、まだはっきりした結論がないと整理しています。そのうえで、若い人が仕事を通じて育つ機会が細ることを論点に挙げ、日本企業も例外ではないとしています。
減っているのは人より、人に使うお金の伸び
6万人の希望退職は、「AIが人の仕事を奪った」というニュースに見えます。でも数字を並べると、もう少し手前で起きていることが見えてきました。
AIが人を置き換えたのではなく、AIに使うお金が人件費の伸びを止めた
タイトルの問いに答えるなら、「半分はそう、半分は違う」です。
違うと言える理由は、対象の部署にAIの製品のチームまで入っていること、そしてAIが社員の仕事を代わりにこなしたから辞めてもらう、と会社が言っていないことです。Amazonのように、理由は組織の太りすぎだと話す会社もあります。
そうだと言える理由は、お金の流れです。設備投資は1年で2倍、社員数は3年で横ばい。Metaは削減を「ほかの投資の相殺」と書きました。AIに使うお金を増やすために、人に使うお金の伸びを止めている。今回の6万人は、その流れの中で一段強く打った手だと私たちは読みました。
入り口が狭くなる。学生にとっての本当の変化はそこにある
スタンフォードの報告で一番重いと感じたのは、減っているのが若い人の採用だという点です。巨大IT企業の希望退職は目立つニュースになりますが、採らなかった人はニュースになりません。
これから就職する学生にとっては、ここが一番の変化だと思います。AIで早く終わる仕事ほど、新人の練習台だった仕事でもあります。AIを使って、新人のうちから一段上の仕事を任せてもらえる人が選ばれやすくなる、と私たちは見ています。学生のうちにAIで何かを作りきった経験は、そのまま入り口を通る力になるはずです。
日本の会社が学べるのは、削減より「選べる形」の作り方
日本の会社にとって、マイクロソフトのやり方から学べる点もあります。組織ごとに出すかどうかを決めること、条件を一人ひとりに具体的に示すこと、春の小さな制度で試してから広げたこと。人の構成を組み替えるのは日本でも同じでも、どこを残し、どこを変えるかを部署ごとに決める細かさは、日本の年齢で区切る早期退職より一歩進んでいます。
そして、AIに投資する会社ほど、人を減らす話と、人を育てる話を同じ紙の上で説明することが求められると思います。マイクロソフトのCFOは、人を絞る費用と、AIの人材への投資を、同じ決算説明会で語りました。社員から見れば、その両方が見えて初めて、残るか出るかを選べるからです。
SOURCES ── 出典・参考
- Microsoft(Amy Coleman)『Introducing a Voluntary Exit Offer』(2026年10月26日)
- Microsoft『Earnings Release FY27 Q1』(2026年10月28日)
- The Motley Fool『Microsoft (MSFT) Q1 2027 Earnings Call Transcript』(2026年10月28日)
- Microsoft『Form 10-K(2026年6月期)』
- Microsoft『Form 10-K(2025年6月期)』
- Microsoft『Form 10-K(2024年6月期)』
- Microsoft『Form 10-K(2023年6月期)』
- Microsoft(Satya Nadella)『Subject: Focusing on our short- and long-term opportunity』(2023年1月18日)
- Microsoft(Scott Guthrie)『Inside the world's most powerful AI datacenter』(2025年9月18日)
- TechCrunch『Microsoft offers buyouts to around 60,000 employees, reports say』(2026年10月26日)
- NBC News(Reuters配信)『Microsoft offers buyouts to 60,000 employees』(2026年10月26日)
- CBS News『Microsoft offers buyouts to 60,000 workers』(2026年10月26日)
- Calcalist(CTech)『Microsoft's voluntary exit offer: the terms』(2026年10月28日)
- CFO Dive『Microsoft holds line on AI spending plans』(2026年7月30日)
- Meta『Meta Reports Third Quarter 2026 Results』(2026年10月21日)
- SiliconANGLE『Meta cuts 10% of staff, cancels 6,000 open roles』(2026年4月23日)
- Alphabet『2026年第3四半期決算(8-K 添付資料)』(2026年10月28日)
- Entrepreneur『Google Is Handing Out Buyouts』(2026年2月11日)
- Amazon『Amazon workforce reduction』(2025年10月28日)
- Amazon『Message from CEO Andy Jassy: Some thoughts on Generative AI』(2025年6月17日)
- FOX 5 New York(Reuters配信)『Amazon cutting thousands of jobs』(2026年1月23日)
- 東京商工リサーチ『2026年1-9月「早期・希望退職募集」状況』(2026年10月3日)
- 東京商工リサーチ『2025年度「早期・希望退職募集」状況』(2026年4月30日)
- Stanford Digital Economy Lab『Canaries in the Coal Mine(2026年8月版)』(2026年8月12日)
- 大和総研(新田尭之)『AIの雇用への影響をどう読むか』(2026年10月14日)


