Google、ハッキングもできる最強AIを“守る側”に先に配った 「Gemini 4 Carbon」をまだ一般公開しない理由
Googleが10月28日に発表した「Gemini 4 Carbon」は、ソフトの穴を見つける、攻撃コードを書く、直す、の3つで最高点を取ったAIです。Googleはこれをまだ一般公開せず、審査を通った650超の防御側の組織に先に配りました。理由は、攻撃のほうが速いから。ソフトの穴は、修正パッチが出る平均7日前から攻撃に使われています。AnthropicやOpenAIも同じ配り方を選んだ今、日本の会社はその列に並べているのか。一次資料で確かめます。

ところがGoogleは、このAIをすぐには誰にでも使わせません。発表によると、最初に渡す相手は「サイバー防御を担う人たちの一部」。政府や電気・通信・金融のような重要インフラなど、審査を通った組織だけです。開発者や企業、一般の人への公開は「できるだけ早く」とだけ書かれ、日付はありません。
なぜ、いちばん強いAIを出し惜しみするのか。Googleは、守る側に配る枠「Fairwind Program」を、サイバーの脅威に対して先手を打ってもらうためのものと説明しています。先手が要る背景は、2つあります。
一つは、穴を見つける力が、そのまま攻撃する力にもなること。Carbonは、見つけた穴を突く攻撃のコードまで書けます。悪い人の手に渡れば、ハッキングの道具になります。
もう一つは、いまは攻撃のほうが速いこと。Googleの傘下のセキュリティ会社Mandiantは、ソフトの穴が修正パッチの公開より平均7日早く攻撃に使われ始めていると推計しています。直す側が後手に回っているんです。
だからGoogleは、守る側に先に渡す順番を選びました。ハッカーより先に穴を見つけて、ふさいでもらうためです。

Gemini 4 CarbonGemini 4 Carbon
Googleで最も強いAI。とくにサイバーセキュリティと、何日もかかる長い作業に強い
- 2025.10直すAIを公開AIがソフトの欠陥を自動で直すCodeMenderを発表。公開のソフトに72件の修正を届けた
- 2026.07政府などに限定サイバー向けのGemini 3.5 Flash Cyberを、政府と信頼できる相手だけに出すと発表
- 2026.09Argonも防御側から前のモデルGemini 4 Argonを、まず審査済みの防御側に。約2週間後の10月13日に一般公開
- NOWCarbonを防御側に2026年10月28日、最強のCarbonを、審査を通った防御側の一部から配り始めた
Gemini 4 Carbonは、Googleが作るAI「Gemini」の最新モデルです。Googleは、サイバーセキュリティと長い作業で最先端のモデルと位置づけています。社内では、Carbonが何日も続けて作業を進める様子が見られた、と開発の責任者のコーレイ・カブクチュオール氏は話しています。
AIの総合的な賢さを比べる民間の指標「Artificial Analysis Intelligence Index」でも、59点で1位です。2位はAnthropicのClaude Opus 5.5(58点)、3位はOpenAIのGPT-6 Astra(57点)でした。
料金は導入価格で、使った文字の量(100万トークン)あたり入力2ドル・出力10ドルです。審査を通った組織は、Googleの「Fairwind Program」という枠を通して使います。この枠の参加者は、すでに世界で650を超えています。
DATA TIMESでは、10月に日本で47日間に公表された個人情報の流出を280件数えました。そのときに見えたのは、攻撃する側がすでにAIを使い始めている姿でした。
では、守る側にAIが行き渡るのは、いつなのか。今回のCarbonは、その答えの一つです。Googleの発表と評価資料、攻撃の速さを示す脅威分析、ほかのAI企業の配り方、日本の状況まで、一次資料で確かめました。
見つける、攻める、直す。3つとも最高点のAI

Googleは、Carbonの力を、守る仕事の流れに沿って3つの点数で示しました。泥棒に入られる前の家にたとえると、こうなります。
- 見つける:家の鍵の甘いところを探す。ソフトの穴(脆弱性)を見つける試験「SEC-bench Pro」で88.2%
- 攻める:その甘いところから本当に入れるかを試す。攻撃のコード(エクスプロイト)を書く試験「ExploitGym」で54.8%
- 直す:鍵を付け替える。見つけた穴を直すコードを書く試験「CWE-bench」で71.0%
どれも、発表の時点で最先端の点数です。
「攻撃コードを書く力」も、公式に測って発表した
ここで一番驚いたのは、真ん中の「攻める」です。攻撃のコードを書く力を、Googleは自分で測り、ほかのAIと並べて公表しました。

Googleの評価資料によると、この試験はインターネットにつながない環境で、1つの課題を1回だけ解かせます。攻撃のコードが本当に狙った穴を突いたと確かめられたものだけを、成功と数えます。
つまり、ほぼ2回に1回、実際に動く攻撃のコードを書けたということです。グラフの右端にある、誰でも中身を手に入れられる公開型のモデルは15〜18%。差は3倍以上あります。
何日も動き続けて、穴を探す
Carbonの強みは、点数だけではありません。もう一つの売りは「長い作業」です。人がつきっきりで指示しなくても、何日も自分で調べ、試し、直し続けます。
攻撃の側から見ると、これは怖い力です。人の専門家が何週間もかける穴探しを、AIが休まず続けられるからです。だからこそGoogleは、この力を最初に手にするのが守る側になるよう、配り方を工夫しました。
一方で、気になる数字もあります。VentureBeatによると、もっともらしい間違いを答える割合は、前のモデルの4%から11%に上がりました。技術の詳しい報告書もまだ出ていません。点数はGoogle自身の測定で、外の検証はこれからです。
最強のAIは、審査を通った守る側から

では、Carbonを最初に使えるのは誰なのか。GoogleのFairwind Programのページには、優先する相手が3つ書かれています。
- 政府と、国のサイバー当局
- 医療・通信・エネルギー・金融などの重要インフラの事業者
- 多くの人が使う中核の技術基盤を持つ会社
応募したすべての組織を審査し、身元も確かめます。使えるのは社内のセキュリティやインシデント対応、侵入テストのチームに限られ、マルウェア(悪意のあるプログラム)を作るような使い方は禁止です。転売や共有もできません。
前のモデルは、約2週間で一般公開された
この「防御側が先」の配り方は、今回が初めてではありません。前のモデルGemini 4 Argonも、9月30日にまず審査済みの防御側に配られ、約2週間後の10月13日に一般公開されました。
Argonのとき、Googleは防御側にサイバーの制限を外した版を渡すと書いていました。一般向けの版は、攻撃に使われそうな頼みを断るよう作られています。審査を通った防御側だけが、その制限なしで、力をすべて使えるということです。Carbonの一般公開がいつになるかは、Googleは言っていません。

Anthropicは「一般には出さない」、OpenAIも後を追った
ほかのAI企業も、同じ方向に動いています。
先に動いたのはAnthropicです。2026年4月、サイバーに強いモデル「Claude Mythos」を、一般には公開しないと決めました。Anthropic自身を含むAWSやApple、Microsoft、Googleなど12社と、40を超える組織だけが使える「Project Glasswing」という枠を作り、古いソフトに眠っていた深刻な穴を何千も見つけています。
OpenAIのサム・アルトマンCEOは当初、この配り方を「AIを少数の手に置いておきたい人たち」と批判しました。ところが9日後、OpenAIもサイバー向けのモデルを、審査した防御側だけに限って使わせ始めました。10月26日に出したGPT-6.1 Terraについても、社内の安全の基準でサイバーの能力を最も高い「Critical」として扱っています。
批判した会社も、半年たたずに同じ形を選んだ。強すぎるサイバーAIは、審査付きで配る。これが2026年の業界の「型」になりました。
攻撃は、修正パッチの7日前に始まる

なぜ、ここまで急いで守る側に渡すのか。理由は、攻撃の速さにあります。

Googleの傘下のセキュリティ会社Mandiantは、2026年3月の年次報告で、脆弱性が悪用されるまでの平均日数が「マイナス7日」になったと推計しています。修正パッチが出るより、平均で1週間早く攻撃が始まっているということです。侵入の入り口として最も多いのも、6年続けて脆弱性の悪用(32%)でした。
パッチが出てから当てる、という守り方では、もう間に合いません。穴は、攻撃者より先に自分で見つけて直すしかない。Carbonのような「見つけて直す」AIが求められる理由が、ここにあります。
攻撃する側も、もうAIを使っている
Googleの脅威分析チーム(GTIG)は、2026年5月、AIで作られたとみられる未知の脆弱性の攻撃コードを、初めて見つけたと報告しました。犯罪グループが大量の攻撃に使おうとしていたもので、Googleが先に見つけたことで使われずに済んだ可能性があるといいます。コードの中には、AIが書きがちな丁寧な説明文や、でっちあげの数字まで残っていたそうです。
10月1日の報告は、さらに数字で見せています。
公開される穴は半年あまりで倍になり、実際に悪用された穴も月平均10.5件(2025年)から18件(2026年1〜8月)に増えました。増えた分の中心は、公開されたばかりの穴をすぐに攻撃に使う動きです。ある穴では、公開から4日で攻撃が始まり、7日以内にさらに5つのグループが続きました。
それでも同じ報告は、守る側には攻撃者が本格的に規模を広げる前の「機会の窓」があると書いています。Carbonを守る側に先に配るのは、この窓が閉じる前に穴をふさがせるためだと読めます。
Anthropicの未公開AIは、5つの環境で攻撃をつないだ
窓の短さを示す例が、Carbonの発表の前日にもありました。Anthropicの研究チームは10月27日、社内の未公開モデルが、5つの環境で攻撃の手順を最後までつないだと公表しました。Chromeでは1回のクリックで相手のパソコンを動かせる攻撃を組み立て、ロックされたスマートフォンからUSB経由で写真を抜き出す手順も作っています。Chromeでは62件の脆弱性が見つかり、すでに修正されました。
研究チームの助言は短いものでした。「自分のコードを調べることが、これまで以上に大事になっている」。
日本は、守る側の列に並べているか

では、日本の会社は、この「守る側の列」に並べているのでしょうか。
Fairwind Programのページにも、Carbonの発表にも、日本や日本の組織の名前は出てきません。一方、AnthropicのProject Glasswingには、日立が6月に参加しています。5月には、日本の3つのメガバンクがMythosを使える見通しだとReutersが報じました。日本企業として初めての例です。列に並び始めたのは、まだ一握りの大きな組織です。
被害の数字は、過去最悪のペース
その間にも、被害は増えています。
警察庁の報告によると、ランサムウェアの侵入口の約5割はVPN機器(会社の外から社内のネットワークにつなぐ装置)で、復旧に1,000万円以上かかった組織が6割を占めました。セキュリティ会社マクニカの集計では、今年1月から10月27日までに国内で公表された漏えいは延べ約3億2,900万件で、2年前の約100倍です。
攻撃する側のAIの使い方も、国内で記録に残り始めました。同じ警察庁の報告には、AIで作ったプログラムを組み合わせてランサムウェアを作った19歳が6月に逮捕された例や、生成AIで直した攻撃のプログラムで動画配信サービスの約4万6,800のアカウントを勝手に退会させた15歳が7月に逮捕された例が載っています。高度な技術がなくても、攻撃ができてしまう時代です。
10月1日から、国の「能動的サイバー防御」が始まった
守る側の仕組みも動き出しました。2026年10月1日、国の「能動的サイバー防御」の制度の一部が始まりました。電力や通信、金融など15分野の258の事業者が、サイバー攻撃の被害を国に報告する仕組みや、攻撃に使われるサーバーに国が入り込んで無害にする措置が対象です。
国は、事業者が届け出た機器の情報と、まだ公表されていない脆弱性の情報を突き合わせ、当てはまる事業者に絞って注意を呼びかけます。その説明資料には、「AIで加速する脆弱性悪用にも対抗する」とはっきり書かれています。攻撃の通信を見つけるために通信の情報を使う仕組みは、2027年の秋から始まる予定です。
AIの勝負は、性能より配る順番に移った
Carbonのニュースは「Googleが1位を取り返した」と読めます。でも一次資料を並べると、もっと大きな変化が見えてきました。
最強のAIを「誰に先に渡すか」が、性能と同じくらい大事になった
Carbonの発表を読んで、一番の変化だと感じたのは、点数より配り方でした。
穴を見つける力と攻撃する力は、同じ力の裏表です。だから、性能が上がるほど「誰に先に渡すか」が結果を左右します。Google、Anthropic、OpenAIの3社が、競争しながらも同じ「審査付きで、守る側から」という形にそろったのは、それだけ力が強くなった証拠だと私たちは見ています。
AIの競争は、性能の1位争いから、配る順番の設計へ。これから新しいモデルが出るたびに、「誰が先に使えるのか」を見る価値があると思います。
列に並べない会社が、いちばん狙われやすい
この配り方には、まだ解けていない問題があります。審査を通れるのは、政府や重要インフラ、大きな技術企業です。一方で、日本のランサムウェアの被害の約6割は中小企業でした。
英国のAI安全研究所は、誰でも中身を手に入れられる公開型のモデルが、サイバーの力で最先端に4〜7か月遅れまで追いついていると測っています。守る側が先に使える期間は、長くても半年ほど。その間に列に並べない会社は、守りの道具が届く前に、攻撃の道具の広がりを迎えることになります。
もう一つ、現場の声もあります。Reutersの取材に、ある早期の利用者は「AIで、どう扱っていいか分からないほどの数の穴をもう何か月も見つけている」と答えています。詰まっているのは見つける側より、直す人の手だという指摘です。
日本の会社にできるのは、待つより「自分の穴」を先に知ること
Carbonを使えなくても、できることはあります。M-Trendsの数字どおり攻撃がパッチより早く来るなら、頼れるのは「自分の会社のどこに穴がありうるか」を先に知っておくことです。警察庁の報告で侵入口の約半分がVPN機器だったように、狙われる場所はある程度決まっています。
国の能動的サイバー防御も、届け出た機器の情報をもとに注意を呼びかける仕組みです。自分の会社が何を使っているかを把握している会社ほど、国やAIの守りの恩恵を早く受けられます。
Googleが一般公開の日付を言わない以上、Carbonが手元に届くのは少し先です。その日までに、自分の穴の一覧を持っておく。それが、配る順番が勝負になった時代に、列の後ろにいる会社の一番の備えだと考えています。
SOURCES ── 出典・参考
- Google(Koray Kavukcuoglu)『Introducing Gemini 4 Carbon』(2026年10月28日)
- Google DeepMind『Gemini 4 Carbon model evaluation』(2026年10月)
- Google DeepMind『Fairwind Program』
- Google『Gemini 4 Argon』(2026年9月30日)
- Google『Introducing Gemini 4 Argon』(2026年10月13日)
- Google DeepMind『Introducing Gemini 3.5 Flash Cyber』(2026年7月21日)
- Google DeepMind『Introducing CodeMender: an AI agent for code security』(2025年10月6日)
- VentureBeat『Google unveils Gemini 4 Carbon』(2026年10月28日)
- Mandiant『M-Trends 2026』(2026年3月24日)
- Google Threat Intelligence Group『AI vulnerability exploitation and initial access』(2026年5月12日)
- Google Threat Intelligence Group『Vulnerability Discovery and Exploitation Trends in the AI Era』(2026年10月1日)
- Anthropic『Project Glasswing』(2026年4月7日、10月6日更新)
- Anthropic Frontier Red Team『Discovering vulnerabilities with Claude』(2026年10月27日)
- TechCrunch『After dissing Anthropic for limiting Mythos, OpenAI restricts access to cyber too』(2026年4月30日)
- TechCrunch『Sam Altman throws shade at Anthropic's cyber model Mythos』(2026年4月21日)
- Help Net Security『GPT-6.1 Terra released』(2026年10月27日)
- TechCentral(Reuters配信)『The Mythos hacking threat is looking overblown』(2026年5月20日)
- 英国AI Security Institute『How far behind the frontier are leading open-weight models on cyber?』(2026年7月17日)
- クラウド Watch『日立、AnthropicのProject Glasswingに参加』(2026年6月5日)
- The Star(Reuters配信)『Japan's megabanks set to access Anthropic's Mythos』(2026年5月13日)
- 警察庁『令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年9月)
- 内閣官房国家サイバー統括室・内閣府『サイバー対処能力強化法等の施行について』(2026年9月)
- 東京商工リサーチ『上場企業「個人情報漏えい」、過去最悪ペース』(2026年10月7日)
- 東京新聞(共同通信配信)『情報漏えい10月までに3億件超 2年で100倍、AI無差別攻撃』(2026年10月29日)


