紙の履歴書は、もうすぐ終わる。延べ1.2億人が学んだネットラーニングの創業者が、AIに読ませる「学びの証明」を配る理由
2000年、日本には約200社のeラーニング会社がありました。ほとんどが「いつでもどこでも学べる」と便利さを売り込むなか、ネットラーニングだけは「学習の記録にこそ価値がある」と考え、受講者に回線をつないだまま学んでもらう方式を選びます。同社で学んだ人はいまや延べ1億2,000万人を超え、講座の修了率は9割を超えます。そのネットラーニングがいま力を注ぐのが、学んだことを改ざんできない形で証明し、AIにも読める「オープンバッジ」です。国内では1,059団体が導入し、301万個が発行されました。紙・自己申告・所属の記録・人が読む、という履歴書の4つの前提は、なぜすべて変わるのか。創業者の岸田徹さんに伺いました。

就職や転職のとき、私たちはいまも、自分で書いた履歴書を出しています。
どの学校を出て、どの会社に何年いたか。資格の欄には、取った資格を自分で書き込む。書かれているのは所属の記録と自己申告で、それを人事の担当者が一枚ずつ読みます。考えてみると、紙がPDFになったくらいで、仕組みは何十年も変わっていません。
ところが、その履歴書を読む側は、ここ1年で大きく変わりました。
世界最大級のビジネスSNSのLinkedInは2026年9月、候補者を探し、事前の聞き取りまでこなすAIの採用エージェントを、2万社以上が使っていると発表しました。同社によると、採用担当者は目を通すプロフィールを83%減らしても、条件に合う候補者を見つけられるようになったといいます。履歴書の最初の読み手は、もう人ではなくなり始めているんです。
読む側の悩みも、深くなっています。同じ発表で紹介された米国の調査では、採用担当者の39%が、いちばんの悩みを「候補者やそのスキルが本物かどうか分からないこと」と答えています。生成AIを使えば、誰でも整った自己PRが書ける。きれいな文章ほど、信じていいのか分からない時代です。
そこで動き出しているのが、「確かめられたスキル」を証明する仕組みです。AIのClaudeを開発するAnthropicは2026年10月、企業の現場でAIを動かす技術者を2027年末までに1万人育てる計画を発表し、実技の試験に合格した人にバッジを出す仕組みにしました。国も動いています。デジタル庁は、国家資格をスマホで示せる「デジタル資格者証」を、2026年3月までに介護福祉士や税理士など21の資格で始め、2026年度には医師や看護師など28の資格に広げる予定です。
AIが読み、AIが選ぶ時代に、学んだことをどう証明するか。その答えとして世界で広がっているのが、オープンバッジです。講座を修了した、試験に合格した、といった学びの証明を、改ざんできないデジタルのデータにして本人に渡す。国際的な標準規格に沿って作られているので、どこで受け取ったバッジも1か所に集めて持ち歩けます。教育技術の標準化団体1EdTechの調査では、世界の発行数は2022年の7,470万個から、2025年には3億2,040万個まで増えました。3年で4倍以上です。
日本でこのオープンバッジを広げてきたのが、ネットラーニンググループです。
ネットラーニングは1998年に東京で生まれた、eラーニング(インターネットを使った学習)の会社です。サービスを始めたのは2000年4月。それから26年のあいだに、同社の2026年9月末の累計で、学んだ人は延べ1億2,142万人、導入した企業・団体は7,665社、作った講座は1万7,859講座に積み上がりました。2025年度の講座の平均修了率は、91.2%にのぼります。国内のeラーニング市場は、2025年度に約3,924億円になる見込みです。その市場を、ほぼ最初の年から作ってきた会社です。
会社で受けた研修の講座、大学で受け取ったデジタルの修了証。気づかないうちに、ネットラーニングの仕組みに触れている方も多いはずです。オープンバッジは東京大学や早稲田大学、トヨタ自動車やNTTドコモなどに導入されていて、2026年3月時点で国立大学法人の半数以上を含む158以上の大学が使っています。
そして今回、なんとネットラーニンググループの創業者、岸田徹さんに、直接お話を伺えることになりました!
取材で返ってきた答えを、先に挙げておきます。
- 2000年、約200社のうち1社だけが「学習の記録」に賭けた
ほかの会社が「いつでもどこでも学べる」と売るなか、学びの過程が見えることに価値を置いた。それが修了率9割と、延べ1億人超の学びにつながった。 - 履歴書の4つの前提が、すべて変わる
紙、自己申告、所属の記録、人が読む。これが、デジタル、第三者の証明、スキルの記録、AIが読む、に置き換わっていく。 - 一斉に配るeラーニングは、消えていく
作ってきた本人が言い切る。次の中心は、一人ひとりが学びの記録をためる「データの財布」。 - 勝負はスピード
この春から市場の反響が変わり、営業が追いつかないほど。アジア全域で、最初の一社になれるかどうかの時期に来ている。

岸田 徹Toru Kishida
株式会社ネットラーニングホールディングス代表取締役 取締役会議長(Founder)
「学びは、他人からはブラックボックスで、自分にとっては孤独。ネットを通せば、それを根本から変えられるんです」── 岸田徹(本記事の取材より)
- 1998ネットラーニングを創業1月、東京でeラーニングの会社を立ち上げる
- 2000eラーニングのサービスを開始4月、社長としてインターネットで学ぶサービスを始める
- 2010ネットラーニングホールディングスを設立グループの持株会社として、事業を束ねる
- 2019〜オープンバッジ・ネットワーク 代表理事 理事長オープンバッジの普及と品質の保証を担う財団を率いる
- NOWネットラーニングHD 代表取締役 取締役会議長グループの創業者(Founder)。日本1EdTech協会の副理事長も務める
1998年にネットラーニングを創業し、2000年4月に社長としてインターネットで学ぶサービスを始めました。そのときの見込みは、初年度の受講生2万人。それがいまでは延べ1億2,000万人を超えます。現在はネットラーニングホールディングスの代表取締役 取締役会議長(Founder)として、グループの方向を決める立場にあります。2019年に設立された一般財団法人オープンバッジ・ネットワークでは代表理事 理事長を務め、教育技術の標準化団体の日本支部、日本1EdTech協会の副理事長としても、学びの証明の仕組みづくりに関わっています。
「いつでもどこでも」と言わなかった1社
岸田さん、今日お話を伺えるのを、とても楽しみにしていました! じつは私、サービスが始まった2000年の生まれなんです。さっそくですが、その2000年は、どんな時代だったのでしょうか?
2000年は、「eラーニング元年」とも呼ばれた年なんです。私たちは、その市場を作ってきたという面もあります。
サービスを始めたとき、eラーニングの会社はすでに200社くらいありました。いまは2,000社くらいあると思います。で、その中で、私たちだけが他社と考え方がかなり違ったんですね。
「eラーニングとは何ですか」と聞かれたとき、私たち以外のすべての会社は、「いつでも、どこでも学べる、たいへん便利な学習です。場所と時間の制約を受けません」と答えていました。199社がそう言っていたんです。
ネットラーニングだけが違った。もちろん便利にはなります。でも、便利になるだけではなくて、学びが根本的に変わる。なぜなら、学習の履歴を取ることができるからです。
200社のうち、1社だけ……! すみません、そこをもう少し教えてください。学習の履歴が残ると、学びの何が変わるのでしょうか?
人類の歴史の中で、「教える」ことは、産業社会で学校が生まれて、すごく発展しました。ところが「学ぶ」ことのほうは、他人からはブラックボックスで、自分にとっては孤独。これはまったく変わっていなかったんですよね。
eラーニングなら、学びのプロセスが見えるようになります。どこでつまずいたのか。どんなスピードで、どんなふうに学習したのか。だからサポートもできるし、学びを設計することもできる。学びが根本から変わるんです。これが私たちの考えでした。
他人からはブラックボックスで、自分にとっては孤独。言われてみると、本当にそうだと思いました……。その考え方の違いは、ビジネスのやり方にも表れたのでしょうか?
表れました。他社の場合は、お客さんの企業の中にサーバーを置いて、そこにeラーニングの講座を載せて、「自由に使ってください」。学習の履歴には関心がないから、取っていないんです。だからIDも使い回しで、同じIDをみんなで使って「同時アクセスは何十人まで」というような売り方でした。企業の中に置くサーバーと講座をセットにして、売って歩いたんですね。
ネットラーニングだけは、学習の履歴に価値があると考えました。だから、私たちのサーバーにつなぎっぱなしで学習してください、と。2000年はダイヤルアップ(電話回線でつなぐ方式)なので、通信に1分20円とかかかった時代です。それでも、つなぎっぱなしで学んでくださいとお願いしました。
結果どうなったか。他社の講座は、結局、誰も使わなかったんです。一方、私たちは修了率が90%。ラーニングセンターという組織があって、人がしっかりサポートもする。値段を比べても、使われないものほど高いものはないですから。私たちは、あっという間に最大手になっていきました。
根本の考え方が違ったんです。他社は物売りで、私たちはサービスとして学びを提供して、結果に責任を持つ。他社は売ったらおしまいなので、契約が終わり。私たちは、契約がスタートなんです。その結果として、延べ1億2,000万人以上が受講するポジションを獲得してきました。
「契約がスタート」というお言葉に、ネットラーニングさんの姿勢が詰まっている気がします。そうして1億人を超える学びを支えてこられて、いまはその先で、どんなことに取り組まれているのか伺ってもよろしいですか?
いま私たちは、「第二創業」と呼んでいる段階にいます。人材を育てるだけでなく、活用するところまでを守備範囲に入れていきます、と。それがオープンバッジなんですね。
育てるから活かすへ、オープンバッジという第二創業
育てるだけでなく、活かすところまで。ぜひ詳しく伺いたいです! 基本的なところからで恐縮なのですが、オープンバッジとは、どういうものなのでしょうか?
オープンバッジを通して、「この人はこんなスキルを持っている」「こんなことを学習した」ということが証明されていきます。私たちがオープンバッジに取り組み始めて、7年ほどになります。
オープンバッジは、世界標準の規格に従って発行されています。だから、どの団体から発行されたオープンバッジでも、受け取った人の「ウォレット(財布)」に持ってくることができるんです。それで「オープン」バッジと呼ばれています。
それまでも、学びを証明するデジタルバッジは、実はたくさんあったんです。だけど、それぞれ独自の仕様なので、その仕組みの中でしか使えなかった。それがオープンバッジになった途端に、爆発的に伸びたんですね。
お店ごとにバラバラだったポイントカードが、どこでも貯まる共通ポイントになった、というようなイメージで合っていますか? いま、どれくらい広がっているのかも教えていただけますか?
世界ではいま、3億個を超えるオープンバッジが発行されています。ほとんどすべての大学と、主な企業のほとんどすべてが活用している。ごく一般的に使われているものなんです。
日本では、私たちが発行したオープンバッジが300万個を超えて、発行する団体も1,050くらい。バッジの種類も、2万数千種類になってきました。大学で言えばいま170大学くらいで、国立大学では55%以上。1学年5,000人以上の大規模な大学も、半分以上がすでに導入しています。企業も、トヨタさんや旭化成さんをはじめとして、代表的な企業がどんどん活用してくださっている。導入に勢いが出てきている状況です。
韓国は大学が400くらいあるんですが、すでに7割ほどの大学が私たちのオープンバッジを使っています。いずれ、全大学にまで及ぶのかなと思っています。
韓国で7割……! そこまで広がっているとは知らず、驚きました。学びの証明をこうして持ち歩けるようになると、就職や転職は、どう変わっていくのでしょうか?
履歴書というのは、いまは紙ですよね。それから、自己申告です。3つ目に、所属の記録でしかない。どの大学にいました、どの企業に何年から何年までいました、と。そして4つ目に、読むのは人です。
これが、これからまったく変わるんですね。まず、紙ではなくデジタルになる。自己申告ではなく、「この人はこれをスキルとして身につけている」と、誰かがしっかり証明するようになる。
履歴書を読むのは、人からAIへ
誰かが証明してくれる履歴書、たしかに心強いです。では、4つ目の「読むのは人」のところは、どう変わっていくのでしょうか?
それを読むのは、AIなんですよね。
オープンバッジには、メタデータといって、この人がどんなふうに学習して、何時間学習して、どんなスキルを身につけたのか、裏に詳しく情報が入っています。AIは、それを全部読むんです。すると、5つのオープンバッジを持っているこの人のスキルセットが見えて、求人する側から「この人を採りたい」と見つけてもらえるようになる。
紙の履歴書を人が読むなら、何枚読めるか分かりません。でもAIエージェントは、世界中に読みに行っちゃうわけです。その中から最適な人を選んでくる。
ですから、これからは間違いなく紙の履歴書は終わって、オープンバッジをベースにしたデジタル履歴書の時代に入っていきます。
紙の履歴書が終わる……。私たちが当たり前のように書いてきたものなので、ドキッとしました。学ぶ側にとっては、どんな変化になりそうでしょうか?
学んだことが証明されて、見つけてもらえる。そのことが、学ぶ動機にもつながるんですね。だから、人材育成の側にもまた跳ね返ってくる。
私たちは人材の活用という分野でこれをしっかり展開して、これまでやってきた人材育成の柱に、もう一本の柱を加えようとしています。育成と活用を統合したサービスへ、いま発展させようとしているところです。
AIが読む、というお話が出ましたが、もしよろしければ、学びの中身そのものもAIで変わっていくのか、伺ってもいいですか?
大きく変わります。これまでの教育や学びは、全体として「知識ベース」なんです。
産業社会には、質の高い労働力が必要でした。同じように力のある人たちを、たくさん育てましょう、ということだったんですよね。ところがいまは、一人ひとりが違うスキルを必要とする時代に入ってきた。組織が職務型(ジョブ型)に変わってきていることもあります。そしてAIによって、知識の意味も変わってきた。
これから必要なのは、実行力を持った人。もう一歩進めて、実現力がある人です。そういう人を、一人ひとりに応じてどう育てるか。AIを使った人材育成を、私たちは「ダイナミックラーニング」と呼んでいます。
一斉に配るeラーニングは、消えていく
ダイナミックラーニング、初めて伺う言葉です。一人ひとりに合わせて学びが動いていく、ということなんですね。そうなると、これまでのeラーニングは……?
たとえば、一斉配信型のeラーニングは消えていくでしょうね。学習管理システム(LMS)も、講座を配るためのプラットフォームではなくなっていくでしょう。
26年、その仕組みを作ってこられた岸田さんご自身がそうおっしゃるのは、正直ちょっと驚きです。代わりに、何が中心になるのでしょうか?
それを実現できるのが、オープンバッジのウォレットだと考えています。
オープンバッジのウォレットは、W3Cの規格に沿った、デジタルの身分証や証明書を入れておける次世代の財布の一種で、今後一般的に使われていくものです。そこに、いろいろな学習の記録や、何かをやった記録をためていく。個人の記録をしまっておく「レコードストア」になっていくんです。学生証も、そうですね。その人の属性だけではなくて、実際に学んできたことも入ってくる。
コンセプトとしては、デジタルツインです。その人の活動や学びを、デジタルとして記録していく場でもある。
これから広がる「パーソナルAIエージェント」(一人ひとりに付くAIの秘書)で大事になるのは、実は個人のデータをどう活用していくかなんです。一人ひとりが、自分のデータは自分で管理する。自分の権限のもとに置いて、自分で活用する。ウォレットは、パーソナルAIエージェントの時代のプラットフォームにもなっていきます。
自分のデータを、自分の財布に持つ時代。そうなると、教育だけでなく社会全体がガラッと変わりそうですね。岸田さんは、どれくらい大きな変化だと見ていらっしゃいますか?
産業社会が、学校を生み出したんですよね。たぶん、産業社会が生まれたときと同じか、それ以上の変化が起きます。
産業社会では、物理的な世界で自動化が起きました。織物を織る機械が自動になると、「この機械を10台買って、10人雇おう」と考える人が出てきて、会社も工場も生まれた。物理的な世界の自動化が、産業社会を生み出したんです。いま、知的な世界の自動化が始まろうとしている。
知的な世界には物理的な制約がないので、スピードにも量にも制限がありません。だから産業社会以上に、とんでもないことが起きるかもしれない。時間の概念も、相当変わると思います。産業社会では、時間に利子がついたり、減価償却という考え方があったりして、企業活動の根本が時間で動いてきました。場所もそう。工場は、決まった時間に1か所に集まらないと仕事ができない。でもAI時代は、ちょっと違ってくるかもしれません。
知的な世界の自動化は、「人の代わり」では進まない
時間や場所の感覚まで変わる……。もう少し身近なところでは、どんなことが起きるのでしょう?
自動運転で考えてみましょう。スマホで呼べば車が来て、降りれば勝手に帰っていく。そういう時代には、社会に必要な車は20分の1になるとも言われています。
もし人型ロボットが一般化すれば、人型ロボットに車を運転してもらえばいいんですよね。それなら今の車のままでいい。中古車でもいい。いまの社会のしくみは変わらずに、自動化が進むことになります。
でも実際は、人型ロボットが運転するのではなく、車のほうが変わるんです。ハンドルがなくなる。お店も、レジにロボットが立つのではなく、レジがなくなる。お店全体がロボットのようになっていくんです。
いま、みんなAIエージェントを人と考えすぎているんです。部下とか、同僚とか、上司とか。AIはチャットから始まりましたよね。ChatGPTがチャットという画面を考えたのは天才的で、大成功でした。だからその延長で、AIを人のように捉えて使おうとしている。でも、これは過渡期です。話しかけないとAIが動かない時代は、もうすぐ終わる。人の代わりではなくて、仕事のプロセスそのものがまったく違うものになるんです。
人の代わりではなく、仕組みそのものが変わる……。そんな時代に、人間に求められるものは何なのでしょう?
やっぱり、人間の知力が問われていると思います。
私は、知には5つの段階があると思っているんです。いちばん下がデータ。その上が情報で、データが少し意味を持ったもの。さらに上が知識。その上が、方法論を持った学問、科学。そしていちばん上が哲学です。バラバラだったデータが、すごい価値を持つ時代に入ってしまった。いまのAIは、知識の段階に入っています。
情報は、知識がないと意味がないんです。たとえば「日本銀行が金利を0.25%上げました」。これは情報なんですね。知識がなければ、ただ0.25%上げた、というだけになってしまう。
しかも、いまの知識のレベルは、まだ部分的です。その上に、資本主義とは何かといった体系的な知識、方法論を持った学問があって、さらにその上に哲学がある。人間は、その学問や哲学の段階にいるのかなと思うんです。一人ひとりが、どういう人生観、世界観、価値基準を持つか、ということですね。
知のいちばん上の段階に、人間の役割がある。そのお話を伺うと、事業として見える景色も気になります。その世界を実現するうえで、いま何が課題だと思われますか?
まず、ビジネスモデルを正しく理解しなければいけないと思っています。2010年ごろから、プラットフォームビジネスが生まれてきました。世界のトップ企業は、全部プラットフォームビジネスなんですね。そして、その勝負を分けるのはスピードです。
プラットフォームは「万に一つ」、だからスピード
プラットフォームビジネス。すみません、普通のビジネスと何がいちばん違うのか、伺ってもいいですか?
iPhoneが出てきたとき、BlackBerryという素晴らしい携帯電話があって、シェアを6割くらい持っていたんです。BlackBerryの人たちは、負けるはずがないと思った。ところが数年で、シェアは数%まで落ちて、完敗してしまう。
これは、携帯電話どうしの戦いではなかったからなんです。BlackBerryは携帯電話で、iPhoneはプラットフォームだった。その上で、100万ものアプリが動いている。Googleも、Facebookも、Airbnbも、Uberも、全部プラットフォームビジネスです。日本には、ほとんどないんですよね。
これまでの企業は、自分たちの中で価値を生み出して、その価値をお客さんに届ける。プラットフォームは違います。プラットフォームの上で、お客さんどうしが価値を生み出していく。Airbnbはホテルを建てる必要がないし、Uberは自分で車を持たなくていい。だから、ものすごいスピードで成長して、世界最大のホテルチェーンより多くの部屋を持つようになる。
その代わり、競争は激しいんです。みんなが殺到するけれど、成功するのは万に一つくらい。ナンバーワンではなく、オンリーワンのビジネスなんですね。そういう構造の中で、私たちは日本だけでなく、アジアでオープンバッジのオンリーワンになろうとしています。
タクシーアプリでいうと、乗る人がいないと運転手が来ないし、運転手がいないと乗る人も来ない、みたいなことですよね。
そうです。プラットフォームビジネスは、立ち上げがいちばん難しい。数が少ないと価値がないんです。お客さんがいても、タクシーの運転手がいない。運転手がいても、お客さんがいない。両方を合わせて育てていかなければいけない、生き物の生態系のようなビジネスモデルで、しかもスピードが問われる。数があるレベルに達すると、一気にブレイクするんです。
いま私たちは、そのブレイクに近いところまで来たかなと思っています。特にこの春から、市場の反響がまったく違うのを感じています。
そうなんですか! どんなところで、その違いを感じていらっしゃるのでしょう?
もう、私たちの営業が、皆さんからのお声に応えるのに間に合わないんです。そういうときが来るだろうとは予想していたんですけれど、市場の拡大に組織が追いつくのに、必死にならなければいけない。
Facebookが爆発的にユーザーを増やしていった頃の話を読むと、夏休みが終わるのが怖かったそうなんですよね。休みが終わった瞬間に学生がみんなアクセスしてきて、耐えられるだろうか、と。
プラットフォームは、最初に始めたところが逃げ切る可能性が強い。だから、アジア全域で、一刻も早く各国でサービスを始めていきたいんです。いま4つか5つくらいの国で、試験的に、あるいは一定の発行を始めています。これを10か国、20か国に増やしていきたいと思っています。
AI時代の学びに、いちばん必要な「生命力」
最後に伺わせてください。DATA TIMESの読者には、エンジニアやデータサイエンティスト、それを学ぶ学生がたくさんいます。これからの時代、学ぶことにどう向き合っていけばいいのでしょうか?
答えも抽象的になるかもしれませんが、やっぱり自分がどう生きるか、ですね。
基礎的な知識。歴史とか、いろいろな哲学者たちがどう考えてきたのかとか。あるいは芸術とか。そういうところが、これからすごく大切になるのかなと思っています。人間力、ですよね。
で、私はもう一つ戻って、生命力だとも思うんです。私たちは生き物であり、動物であり、人間です。生きる力、この人生を本当に楽しむこと。自然と一緒に生きて、パワーを持つこと。私は八丈島に住んでいるんですけど、一人ひとりが本当に生命力を持って、それをベースに人間力を持って生きてほしい。生きるってことですよね。
AIの話を1時間伺って、最後に返ってきた答えが「生命力」でした。
学びの記録は、AIが信用できる「文脈つきのデータ」になる
取材のあと、岸田さんの話と、ネットラーニングの発表、オープンバッジの規格を並べてみました。見えてきたのは、26年前の「学習の記録に価値がある」という判断が、いまAIの時代に、そのまま一番の強みになっている構図でした。
1998年の賭けは、データビジネスの先取りだった
2000年に199社がしていたのは、講座とサーバーを売る商売でした。売った瞬間に関係が終わるので、学習の記録は手元に残りません。ネットラーニングだけが、つなぎっぱなしにしてもらうことで、使われるほど学習の記録がたまる仕組みを選んだ。
記録がたまると、つまずく場所が分かり、人が支えられる。支えると修了率が上がり、また記録がたまる。いまの言葉で言えば、データがたまるほどサービスがよくなる循環です。岸田さんは取材の中で「データはたまるほど価値が上がる」とも話していました。それを、通信料が1分20円の時代にやっていた。AI企業がこぞって「使われるほど賢くなる仕組み」を競ういま見ると、26年早かったデータビジネスに見えます。
自己申告の履歴書は、AIにとって「出どころ不明の文章」
私たちがAIとデータの仕事でいつも気にしているのは、AIに渡すデータに「文脈」がついているかどうかです。誰が、いつ、どんな基準で作ったデータなのか。それが分からない文章は、AIにとって、読めても信じていいか判断できない材料になります。
自己申告の履歴書は、まさにその状態です。「Pythonが使えます」と書いてあっても、誰がそれを確かめたのかは書いていない。オープンバッジは逆で、発行した団体、合格の基準、学習時間が中に入っていて、改ざんされていないことも確かめられる。AIが人を探す時代の「信用できる文脈つきのデータ」なんです。AIエージェントが世界中の候補者を読みに行くようになるほど、この差は大きくなると思います。
オープンな規格で、オンリーワンを狙う
最後に、取材中ずっと気になっていた点です。オープンバッジは規格が公開されていて、どこで受け取ったバッジも同じ財布に入る。つまり、利用者がほかの発行サービスに移るのも簡単です。それでなぜ「オンリーワン」を狙えるのか。
答えは、バッジを出す側の網だと思います。国立大学の半数以上、トヨタ自動車やNTTドコモ、韓国の大学。学ぶ場(LearningSpace)と、証明を出す場(オープンバッジ)、品質を保証する財団が、一つのグループにそろっている。規格はオープンでも、発行する側のつながりは簡単にはまねできない。岸田さんが「スピード」を繰り返したのは、このつながりを広げきるまでの時間との勝負だからでしょう。この春からの反響の変化は、その網が、利用者を呼ぶ側に回り始めた合図なのかもしれません。
学びが「見える」時代の、その先へ
eラーニングとは何か。2000年に、ほとんどの会社が「便利さ」と答えた問いに、岸田さんは「学びが見えること」と答えました。26年たったいま、その答えは、学んだことを証明して持ち歩き、AIに読んでもらう、というところまで来ています。
その先に見えているのは、学びの記録が、一人ひとりの財布にたまっていく社会です。国内では国立大学の半数以上がオープンバッジを使い、学生証そのものをデジタルの財布にする大学も現れました。学研グループの研修会社は、国を越えて働く人の検定に使い始めています。アジアでは、日本と韓国に続いて、5つの国と地域で発行の準備が進み、バングラデシュでは初めてのバッジが出ました。世界の発行数は、3年で4倍を超えています。
ここから先、注目したいところは立場によって違います。
- 学生の方
講座や資格で受け取ったバッジは、捨てずに一つの財布にためておく。それが、AIが読む履歴書の材料になります。そして岸田さんの言う通り、歴史や哲学、芸術にも時間を使う。AIが知識を引き受けるほど、その上の段階が問われるからです。 - 人事や研修の担当の方
「何を学ばせたか」より、「学んだことを、どう証明して、どう活かすか」まで設計する。会社が伸ばしたいスキルを決めて、学びと結びつける仕組みは、すでに製品になり始めています。 - エンジニアやデータの仕事の方
検証可能な資格情報(VC)と、個人が自分のデータを管理する財布は、パーソナルAIエージェントの土台になる技術です。AIに「信用できる文脈」を渡す設計は、採用の外でも同じように問われていきます。
学びは、ずっと他人からはブラックボックスで、自分にとっては孤独でした。 その箱を開けることに26年かけてきた会社が、いま、開けた中身を一人ひとりの手に返そうとしています。紙の履歴書が終わる日は、思っているより近いのかもしれません。
SOURCES ── 出典・参考
- ネットラーニングホールディングス『会社概要』
- ネットラーニングホールディングス『トップメッセージ』(2026年5月11日)
- ネットラーニング『会社概要』
- ネットラーニング公式サイト(導入社数・学習者数・講座数・修了率の累計、2026年9月30日現在)
- ネットラーニングホールディングス『オープンバッジ事業』(2026年9月末現在の導入団体数・発行数・種類数)
- 一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク『財団概要』
- INTERNET Watch『チュータが支援するビジネス向けWeb学習システム「ネットラーニング」』(2000年4月19日)
- ネットラーニング『LearningSpace、組織戦略に沿ったスキルアップを支援するAIレコメンド機能を発表』(PR TIMES、2026年7月29日)
- ネットラーニング『AIでeラーニング制作と採点添削を加速 ネットラーニングが研修業務を大幅に効率化する新機能を提供開始』(PR TIMES、2026年4月14日)
- ネットラーニングホールディングス『4月よりデジタル学生証のサービスを開始』(PR TIMES、2026年3月30日)
- ネットラーニングホールディングス『バングラデシュでオープンバッジサービスを開始』(PR TIMES、2026年2月26日)
- ネットラーニングホールディングス『学研グループTOASU、次世代スキル証明「オープンバッジ」を導入』(PR TIMES、2026年6月24日)
- ネットラーニングホールディングス『「オープンバッジ3.0」のすべての技術認証を取得 日本唯一のオープンバッジ3.0フルサービスを提供』(PR TIMES、2025年3月6日)
- 1EdTech『2025 Badge Count Shows Accelerating Momentum in Digital Credentials』(2025年12月11日)
- 1EdTech『Open Badges Specification 3.0』
- LinkedIn『LinkedIn Announces Hiring Assistant 2, its Next Generation Hiring Agent, to Help Recruiters Deliver Stronger Hiring Outcomes』(2026年9月29日)
- LinkedIn『LinkedIn expands verification to help members and businesses build trust on and off LinkedIn』(2026年9月23日)
- Anthropic『Claude Frontier Academy: $100M to train 10,000 engineers』(2026年10月2日)
- デジタル庁『国家資格等オンライン・デジタル化の開始について』(2026年6月1日)
- Reich, Ruipérez-Valiente『The MOOC pivot』Science 363(6423), 2019
- 矢野経済研究所『eラーニング市場に関する調査を実施(2026年)』(2026年4月22日)


